2-1話 単独行動
輩は、ジャケットの内ポケットから、1つのリングについている大量の鍵を出した。その中の一つを外し、鍵を開ける動作をする。
「なんだなんだ、まさかその鍵で俺を連れて行くってのか? 連れて行けるものならやってみろ」
ラブディフェンスを心の内で唱え、輩からの攻撃を待つ。だが、輩は俺の言葉を無視するかのように、見えない扉を開き、中へ消えてしまった。
「威勢の良い事言って、シカトかよ。拍子抜けだぜ」
俺は、姿が消えてしまった輩を追わず、手を後頭部のあたりで組みながら、歩き出し…。
ボフッ!…ッ…ッ…
気づくと腹の側面に拳が練り込んでいた。横を見ると、さっきの輩の姿が見える。
何故だ。ラブディフェンスの効果は切れていないはず。見えない扉から出てきたとしても、俺を標的にすれば当たるはずが無いんだぜ?
ゆっくりと倒れる俺に、
「スッゲー驚いてる顔してんじゃん。ダッセ」
と、見下ろすように見ている。
パンチの威力はそこまで無い。完全に不意打ちだった。俺に直接触れていると言うのに、何故、ラブディフェンスが、効かないのか。それを攻略しない事には、輩を倒すことは出来ない。
「ぼーっとしてたら、ボコボコにして連れてっちまうぜ〜」
カチャッ…
また輩の姿が消えた。次はどこから来る。
「ブフッ!」
後ろか。
カチャッ。
再び輩の姿が消え、次は前から攻撃を受けた。今回は出てくる瞬間をキャッチできたはずなのに、俺の能力が効かない。
それから、ひたすらに攻撃を受け続け、輩はだんだん疲労が溜まってきた様子だ。
「…なぁ。タイマンだろ? お前からもやってくれないと、やりがいねーんだけど?」
「なぁ。俺の能力をすでに知っていたのか?」
「もちろん。テレビで取り上げられてたら、誰だって分かるでしょ。あからさまに攻撃受けてなかったし」
「違う。俺の弱点を何故知っているんだ? テレビ上だと、俺は無敵に映っていたはずなんだからよう」
「あー、それは後で教えるわ。変なこと言ったら、怒られんの俺だし。で、いつやってくれんの? …おーい。きーてますかー?」
答えない俺に、ずっと呼びかけてくる輩の声は、瓶の中から聞こえるようだ。
これで俺の弱点はすでに知られている事がほぼ確証した。検証してきた中で、どの方向からでも俺に向かって攻撃をされている。そしていつも、現れたと同時に攻撃を放っている。ん? 同時…
「そうか!」
ポンっと、手を叩き、閃いた俺に、
「フッ。何?今更分かったのか? でも、もう遅い」
カチャカチャカチャカチャッ。
輩は、複数の鍵を取り、見えない扉を再び開けた。
「ブフッ…」 「ブフッ…」
あー、じれってぇ。何故攻撃が当たるか理由が分かったのに、間に合わねぇ。
輩は俺にパンチを与えると、すぐに消え、また違う扉から現れ、俺を袋叩きにしている。輩の攻撃が当たる理由、それは、扉を開ける際に、扉をパンチしながらそのまま俺の方向へ突っ込んで来ているからだ、多分。俺への攻撃では無く、あくまで扉を開ける手段として。パンチの威力が弱いのも、これがあるからだろう。扉がクッションになってくれているおかげで、俺は攻撃されている間、考える時間が出来た。
だが、理屈が分かっても、出てくる瞬間を掴まない事には間に合わない。出てくる瞬間さえ掴めれば、俺の勝ちも確定する。あー、ダートンだったら、瞬時に音を察知して、こんな奴、瞬殺だろうに。だっせぇな俺。
「遅い遅い。お前不器用そうな顔してんもんなぁ。そろそろ、俺も本気だそうか」
不器用そうな顔ってどんな顔だよ。実際、俺は不器用だけどよ。いや、待て。
『アクマは不器用なんだよ。0か100みたいにね』
輩のおかげで、ダートンの言葉を思い出す。
「サンキューな。お前の挑発でいい事思い出したわ。お前のセリフ貰うぜ」
「は? 笑ってんのも今のうちだぜ。俺から行かせてもらう」
「どうぞどうぞ。俺は大人だから譲ってやるよ。さぁ、ここから俺の本気、出そうじゃないか」
輩は持っている鍵を全て外し、頭上に放り投げ、俺には見えない扉の鍵が同時に開いた。鍵の数からして、現れる方向は、前後左右ではきかないだろう。だが、威力はそこまで強く無い。出て来たところを狙うのでは無く、パンチが届いたその瞬間、俺の本能で100%の力を放てば、当たるはずだ。さぁ、どこからでも来い。
キー…
よし、来たっ!
ボフッ… ブウォン、ウォン…ウォン…
なんで今更、パンチの威力が上がってんだよ、こらあああ!
「ビックリしてるー。こっちも本気出すって言ったのに、お前の本気とは?」
くーーーー!! 腹立つ。ぜってぇ潰す。クソが!
「お前の本気がどんな物か見てやろうと思ってよう。一発やらせただけだ。次はこっちの番でいいよな」
「どうぞどうぞ。ほら、鍵、一旦放棄するから。やってみろよ、不器用さんっ」
輩は鍵を俺に向かって投げ、手元から離した。
あー、しゃらくせぇ。元々俺は考えて行動するのが苦手なんだよ。慣れねぇ事するんじゃなかったわ。ただ、何の勝機もなく、鍵を捨てるなんぞする訳がねぇ。だから…
チャリン… チャカチャカ…
「お、おおおおい! ど、どんなとこに入れてんだよ! 汚ねぇじゃねえか!」
「わりぃな。終わったら洗って返してやるよ」
不安要素を消す為、輩の鍵を俺のパンティーの中に、大事にしまってやった。
「汚ねぇし、やる事も汚ねぇ。もー早くかかってこいよ」
「わーったよ。じゃ、歯食いしばった方がいいぞ」
俺の鋭い目つきに少し驚きの顔を見せるが、輩が構えると同時に、地面を120%の力でブン殴る。そして、浮いた瓦礫を足場にして、輩の元へ駆け寄り、目を見開き立つのもやっとの輩を150%の力でブン殴…
シュンッ!!
やっぱりな。
輩は俺がブン殴る直前で扉を開けずに消えた。
悪いが、もっと気難しい奴とずっとやり合って来たんだよ。このぐらい想定内!
パシッ!!
「つーかまえた」
「おまっ…」
俺は輩の腕を掴み、ハンマー投げの様に振り回し、空高く投げてやった。ついでに、お預かりしていた、鍵も、トイレの洗面所で石鹸で洗って、仕上げに除菌シートで綺麗に拭いてあげたぜ? その場に鍵は置いて行き、俺の背中が見えなくなる頃に、輩は鍵の元へ落ちて来ていた。
「ダートン、どこいったんだよ。俺の晴れ舞台の場所も探さなねぇとだし、あー忙し」
輩の能力はおそらく、透明人間だ。ま、見えない様にしているだけで、気配はプンプンだったけどな。鍵はまやかし用ってこと。透明人間でいる空間と、実際の空間は別物になっている。薄い膜のようにな。最初、本当に扉があるかのように、まんまと騙されたぜ。ぶつぶつ考えて、慣れねぇ事してたから、気づかなかっただけで、いつも通りやってれば、この俺様なら瞬殺だったな。
なーんて、終わった事、言っても仕方ねぇ。俺はエネミーの相手してる場合じゃねぇーんだよ。あ、でも、俺の弱点を知った理由、聞く前に倒しちまったな。
「…ま、いっか。それより、ダートンどこなんだよーー!」
しばらく歩いていると、ライト街とシャドー街の狭間、バリーラインの所まで来ていた。そこには、門番が立っており、通るのには許可がいる。許可の基準はこうだ。
――――――――――――――
両街共通の許可はヒーロー、ノットヒーローの免許を持っているか否か。
ライト街からシャドー街に渡る際の基準。
1、ヒーロー免許を持ち、任務への、必要性の有無。
2、シャドー街へ移住する為なのか否か。
上記の基準を満たさない場合、入街を見做さない。
シャドー街からライト街に渡る際の基準。
1、ノットヒーロー免許を持ち、任務を全うするか、否か。
2、エネミーは3時間以内に帰還するか否か。
上記の基準を満たさない場合、入街を見做さない。
そして、入街後、基準から外れた場合、即帰還。ペナルティが付く。ペナルティが3つになれば、今後一切の退街を許されない。
ライト街の住人はペナルティが付くだけでは罰則が与えられないが、シャドー街の住人はペナルティが付くたび、一定期間、牢に入れられる。
――――――――――――――
門番の目の前に着くと、こう問われた。
「身分を証明出来るものは、あるか?」
ターンを決めて堂々とノットヒーロー免許を見せる俺。
「任務を全うすると誓うか?」
「もちろんっっっだ!」
早く早く。ダートンが居たらこんな事しなくても良いんだからよう、ちゃちゃっと通らせてくれ。
「よし、入街をお断りしよう」
「は!? なんでっ!?」
「誓いを問う私に、敬意が見られないからだ。あと、ちょっとムカついた」
「ちょっと、サランダさーん。俺、やっと免許取って、堂々と出れるんすよ。サランダさんに敬意ありまくりっすよ。しかも、絶対、ムカついたからってのが10割っすよねー」
今対応してくれている門番の名は、サランダさん。門番は、グーレ街の住人の選ばれた者が取り締まっている。ライト街、シャドー街、どちらにも属さない団体だ。住んでいる場所は、空… らしい。曖昧な情報の理由は、一番恨みを買いやすいからだ。どちらのケツも持たないと言っても、入街を許した後、問題があると、門番の責任にも関わるからだ。その為、グーレ街はどこにあるのかは、グーレ街の者にしか分からない。空というのも、噂を聞いただけの事だ。
「いや、9.9割だ」
「四捨五入したら10じゃないっすか。いいんすかー? 私情挟んで」
「あぁ、私情を挟もうが挟まないが、アクマと俺だけが知っている話。他は知らないからな」
「もし、俺が言いふらしてでもしたらどうすんだよ…」
「ん? 問題ないだろ。俺の話を聞かず、お前の話を信じる奴がいるか?」
くーーー、腹立つぅー!
こんなに突っかかってくるのは、理由がある。サランダさんに出会ったのは、ノットヒーローの本部に、中学生の俺が乗り込んだ日だ。何を言っても通してくれなくて、参ったが、それでも引き下がらなかった俺を見て、許しを得れた。本来、未成年を通すには、保護者の同行が必要。その為、代わりに、サランダさんが同行してくれ、挙げ句の果てに気絶した俺を家まで運んでくれた。サランダさんには恩があるんだが、何故か、可愛がってくれない…。あ! 恩を返してないからなのか?? だとしたら…
引き返そうとした俺は、体を捻り、サランダさんに目を向けると、
「飯!…」
と、言いかけたが、
「そんなもの、いらぬ。そんな時間があるなら、修行でもしろ」
と、最後まで言う間もなく、断られた。
身体に力が抜け、トボトボ歩く俺。
修行? ノット高で嫌ほどしたし、後は実戦あるのみだろ? 何言ってんだか、サランダさんは…
その時の俺は、サランダさんの言葉に、目を向ける事なく、アテもなく、ただ帰る事しかできなかった。
お読みになって頂きありがとうございます。
引き続き頑張って参りますので、次回も読んでいただけると幸いです。




