1-2話
「昨日、午前7時頃、新人ヒーローが、快挙を成しました。ヒーロー達は民を救出し、消火を待っていた様子でしたが、まだ犠牲者が施設内に生存しておりました。では、昨日の中継をご覧ください」
〜中継〜
「何故、まだ犠牲者が残っていると分かったのですか?」
「まだヒーロー登録に名前が無いようですが、ヒーロー名は?」
「ヒーローと警察が貴方の事を警戒して、攻撃していたそうですが、どのような能力をお持ちなのでしょうか?」
新人ヒーローはマイクを受け取り、眉間に皺を寄せ、顔がハバネロのように赤い。
「俺は! ノットヒーローだーーーーー! ヒーローじゃねぇ! くそが!」
新人ヒーローは、マイクを投げ飛ばし…
プツッ…!
「これはどういうことかね。アクマくん」
ノットヒーロー本部、ジュラ会長が、不気味な笑みを浮かべて、俺に問う。
「ぐうの音も出ないです。頭では分かってたんです、でも、体が勝手に… あの後、ヒーロー狩りをするつもり…」
「その釈明をすると、ルールを破っても良いと証明されるんだね。だとしたら、どうぞ続けて」
「…いえ、申し訳ございませんでした」
俺は深々と頭を下げると、
「ダートンくん。君も一緒に居たようだが、何か話はあるかね?」
次は、後ろにいたダートンに問う。
「申し訳ございません。でも、エネミーは救助しました。ルールを破ったと言っても、アクマのお母様ですし、致し方ないかと」
「そうだね〜。お母様ね〜。それが、シャドー街の住民だったらね。アクマくんのお母様は、ライト街の住民でしょう? 交わってはいけないね〜。ね? ダートンくん」
「はいっ! 申し訳ございません。口を慎みます」
成績優秀だったダートンでも、ジュラ会長の圧には勝てなかった。それほど、ジュラ会長は、会長に相応しいということだ。
「で、アクマ。久しぶりのお母様はどうだった?」
会長は、不気味な笑みから、柔らかい表情に変わり、まるで理想のお父さんのような優しく包まれる感覚だ。
「相変わらずでした。俺なんかを応援してくれる人なんて珍しいですから」
「そうか。厳しいことを言うようだが、団体で動いているとな、一人でもルールを無視すれば、脆く崩れてしまうんだよ。それは、分かっているね」
「はい…。次からはこういった事が無い様、約束します」
本来なら、罰則が付くはずなんだが、今回はお許しを得て、そのままノットヒーローを続けて行けるようになった。本部から外に出た俺達は、朝食を食べに、シャドー喫茶店に寄った。
カランカランッ。
「シャドーコーヒーと、シャドーサンド二つずつ下さい」
「かしこまりました」
喫茶店のマスターが一人でやっている小さな喫茶店。シャドー街でも、ここは、限られた人間しか入れない。何故ならここに入れる条件は、まず一つ、ノットヒーローのみ。もう一つが、SSランクのみだ。え、俺か? そんなもの、SSランクじゃないに決まってるだろう。ダートンがSSランクで、上手く言ってもらって、通えるようになったんだよ。
カウンターテーブルに俺達は腰掛け、話し始める。
「アクマ。思ってたのと、違う目立ち方したけど、実際はどうなの? アクマは、ライト街出身でしょ? あのままヒーローになろうと思わなかったの? 目的が目立ちたいんだったらさ」
俺は指を横に振り、
「確かに、ライト街出身だ。でもよう、合わなかったんだ。純粋な光に浴びて映るヒーローの横で、負け試合をするエネミー、ノットヒーローが邪険にされる世界が」
「ふーん。でも未だかつて、ノットヒーローがヒーローに勝った事ないんだよね。アクマは能力値は高いけど、使い方が不器用なんだよ。0か100かみたいなね。今のままじゃ、ヒーローより目立つのは難しそう」
「はいはい、成績優秀、卒業と同時にSSランクになったダートンくんには、到底叶わないですよー」
「いやいや…。僕がこの能力を得たきっかけは、大事な人が目の前で殺された時だよ」
「うおー、ぶっこむね。結構、壮絶な過去があったんだな」
珍しく自分の話すんだな。
おちゃらけた表情から寂しげな表情に変わるダートン。
「あぁ、僕の耳が聞こえなかったせいで、その人は殺された。最後に言われたんだ、『俺の事は良い。悔しいなら、お前の欲しいものを諦めるな。そうすればきっと、強くなれる』ってね。それから、全く聞こえなかった世界が、少しずつ聞こえてくる様な気がしたんだ」
「その、大事な人?からの、プレゼントだな。良いプレゼントもらって良かったじゃねぇか」
「それがね、そんな良いものでもなかったんだよ。それまで、人との会話は、口の動きを見て判断していたんだけど、戦闘には全く向かないし、外からの音が聞こえる様になったんだと思ったのは、身体に伝わる振動。プチプレゼントだよ、ほんと。まぁー大変だった。周波数ってなに? から始めて、同じ音程に聞こえる言葉でも、言葉が違うと、微妙に違うんだ。今はもう慣れたけどね」
「じゃあ、俺の頭の中に伝えてくるやつは、どうやってんだ?」
「これだよ」
ダートンはいつも身につけている、ヘッドフォンへ指を指す。耳が聞こえないのは知っていたから、ファッションで着けているものだと思っていたんだが。
「それは、音を聴くものだろ? なんでそれを人に伝えることもできるんだ?」
「大事な人がヘッドフォンをくれて、使わずに家に置いてたんだけど、手に取ったら、閃いてさ。これを見えないコードにして、人の頭に繋げたらどうなるんだろうって」
「おぉ! 考えたなぁ!」
「我ながらに名案だと思ったよ。弱点を武器にするなら、抜かり無くやっておかなきゃね」
「そうかぁ… 今ダートンと話せているのも、努力の結晶ってことだろ? よく頑張ったな」
「… 生意気」
「あぁん!? やんのか?」
俺の物音で、マスターがジロッと睨みを効かせてきたことにより、ネズミのような肩身の狭さの現実に気づく。
「じゃあ、アクマはどうやってその能力を得たの?」
テーブルに肘を付き、次はダートンが俺の能力に興味を示す。
「あぁ、俺? 中学の時に、ノットヒーローの本部に直談判しに行ったことがあってよう。高校からじゃないと入れないと帰されたけど、諦めきれなくて、ここの強いやつと戦わせろって言ったんだよ。そしたらよう、その時の衝撃で、名前が曖昧なんだが、毒…って名前のノットヒーローが出てきて、一発KO。その時に思ったんだよ。力が無いから勝てない。ヒーローだけじゃない、ノットヒーローも力があれば輝やけるって」
「それでそれで?」
「次の日目覚めたら、使えるようになってた」
「はぁ!? ここでチートコース? だるー」
「まぁ、俺様がチートなんて、当たり前だろ? って言いたいんだが、それはパンチやキックの威力が上がっただけで、ラブディフェンス(絶対防御)は、俺に勘当した父親が、俺の意思を尊重する母親に、その日唯一、手を出そうとしたんだ。それで、母親を庇おうとしたら自分のものになってたって感じだな」
「なるほどね。そりゃあ、あの時、お母様を見捨てれないよな。羨ましいよ、一人でも応援してくれる人が居て」
「お前の過去は未だにあまり知らねぇが、俺がいるだろ。俺にとってお前は道標なんだぜ。ノット高(ノットヒーロー学校の略称)の奴ら、とにかく悪い事がしたいとか、ライト街を潰すとか、特に理由もねぇ、ちょっとした妬みで言ってたけどよ、お前は違った。正義と誠義、どちらを持っているのかヒーローに確認したいってさ」
「そんな事言ったかなぁ?」
「俺はしっかり覚えてるぜ。俺は、ヒーローだけが目立つのが嫌で、敵だってかっこいいじゃねぇかって、子供じみた事しか考えてなかったけど、お前の言葉聞いて、ハッとしたんだ。俺が抱いてたヒーローへの苛立ちが」
「そうなの? じゃあ、僕が役に立ったって事で、ここはアクマのおごりだよね。サンキュー」
少し照れていたダートンだったが、何か企んでいる様な笑みで、立ち去ろうとする。
「お、おい! 俺が払ったら2倍の料金請求されんだよ! 待て!」
店の外に出て行ってしまったダートンを追いかけようとするが、後ろから肩に大きな手が添えられる。
「待つのは貴方ですよ。はい、これ」
と、領収書を出すマスター。
「え!? 2万ピロー!? 10倍じゃねぇか!」
マスターは、分厚い手に力が入り、領収書が今にも粉砕しそうだ。
「わ、分かったよ。次はお手柔らかに頼むぜ」
マスターへ朝食代を渡し、逃げるように出て行った。その後、マスターが200ピローとスーパーの割引券を見つめて、静かに怒りを堪えている事を、俺は知らずに。
店を出て、しばらく探したが、ダートンの姿は無かった。ダートンは、俺の家を知っているが、俺はダートンがどこに住んでいるのか知らない。基本、自分の事は話さないタイプだから、今日は貴重だった。
「いてっ! 何すんだよ!」
後ろから歩いてきた奴が、俺と衝突し、キレている。学生の俺だったら突っかかっていたが、もう俺は大人。こんな事軽く流せる。
「何だ? てめぇ? 前歩いていた俺が悪いとでも? すみませんでしたねぇ!」
ほら。ちゃんと謝っただろ? 大人になると、自分が悪くなくても、とりあえず謝るのが鉄則。
「はぁ!? 俺が悪いって言ってんのかぁ!? あぁん!?」
何故だ。さらにキレたぞ。俺、謝ったよな。そうか、聞こえなかったんだ、きっと。
俺は、輩の耳に向かって、もう一度、
「すみませんでしたねぇ!!!」
と、伝えた。
よし、これで一件落着。 俺が目立てる舞台を探しに行こう。
「ゔぅ!」
「おい、どこいくんだ」
去り際に首の後ろを掴まれ振り向くと、まだ輩は怒っている。
「何だよ。悪かったよ、俺はやる事あるからもう行かせてく…」
「やっぱり。お前、新人ヒーローの…」
「人違いだ。じゃあな」
輩が話しかけた途端、食い気味に答え、回れ右。
俺のイメージ、それになっちまったか。黒歴史ってのに、そっとしておいて欲しいぜ。
「おいおいおい、そんな丸見えな嘘で行けると思ってんの?」
目を丸くして輩が俺の肩を鷲積みにする。
「お前を見つけたら連れてくる様に言われてんだこっちは。へっ、ちょうど良かったぜ」
「おぉー、やってやろうじゃないか。指示したヤツが誰だか知らねぇが、お前みたいなただの輩には負ける気がしねぇからなぁ」
しつこく構われ、逃げることは諦めた俺は、輩とのタイマンを受けることにした。
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その頃、ダートンは本部に呼び出しを受けていた。
「悪いねぇ、続けて呼び出してしまって」
「いえ、話とはなんでしょう?」
テーブルに腰掛け、両手を軽く握りながら笑みを浮かべる会長に、片膝を下ろしながら跪き、呼び出された理由を問うダートン。
「いやぁねぇ、最近、良くない噂が聞こえてきてねぇ… 少し手伝ってもらいんだよ」
話を聞き、目を見開くダートンへ、会長は、一つの任務を任せたのだった。
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