1-1話 俺の晴れ舞台
この世界はヒーローという、公務員よりも頼りになる職業がある。
「誰か、誰か助けて、ヒーロー!」
エネミーと言われるヒーロー、民の敵が、30代女性を抱擁しながら拘束している。女性は助けを求め、目を瞑り叫んでいる。そこに来たのは、
「そこの女性を離すんだ!」
と、エネミーに向かって飛び蹴りをした、赤いスーツに白のマントを纏ったヒーロー。その名も赤リンゴ。
「何すんだ糞ヒーロー! 正義の味方みたいな奴が一番嫌いなんだよ!」
一度は女性と引き離されたエネミーは赤リンゴに屈せず、再び立ち向かう。だが、赤リンゴの必殺技、兎型林檎によって、大量の林檎がうさぎになり、エネミーを確保する。辺りは拍手喝采だ。
という、テレビの実況を見て、俺はテレビに向かってパンチ!
……。
壊れた後の、修理代の事が頭によぎり、直前で手が止まった。
「あー、つまらねぇ。そろそろ行くか」
幼少時代は誰もが皆、ヒーローに憧れ、好きになる。理由はかっこいいから。だが、俺は違った。どんなバトルアニメでも、敵に目がいき、最後は絶対に負けるのに、それでも立ち向かう敵がかっこよく見えた。
ここは政府公認のヒーロー学校や、職業の中にヒーローがあるが、もうひとつ、ノットヒーローという政府非公認の職業がある。もちろん学校もある。ノットヒーローというのは、文字通り、ヒーローではない。エネミーと同じ、ヒーローの敵。
そんな職業に憧れた俺は、幼少期からの友達からバカにされ、父親にも勘当され、高校からは、ノットヒーロー学校の寮で暮らしていた。
そして、晴れて今、ノットヒーローになれたのだ。絶対、ヒーローより目立ってやる。
何故、政府非公認にもかかわらず、ノットヒーローという職業が消えないのか。それは消してもどんどん湧き上がって来るからだ。楽しみ、嬉しさをを共有する集団より、不幸や憎しみ、悪意をもちながら共有する集団の方が、結束が固い。よって、ノットヒーローという職業が残っているという訳だ。
「よっ! アクマ。今日は早い出勤だね〜。まだ出勤要請出ていないのに」
家から出ると、ずっと待っていたかのように現れた、ダートン。俺もそうだが、本名は皆、別にある。ノットヒーローは、学校に入る時から、表に情報が流通しないように、ノット名を使用する為、本名は取り消される。そして、ノット名で生きて行くことになるのだ。だから、ノットヒーローは皆が本名を知らない。
「お前もな。またヒーローが目立ってたからよ、あのまま居たらテレビが壊れちまうと思って出て来た」
「ひぃー! アクマくん怖ぁ〜い」
「俺は家に出たら目の前にお前が居たことの方が怖い」
ダートンは、学生の時からずっと俺に付き纏って来た。成績は優秀で、コイツを本気にさせたら、現役ヒーローの半分は消えるんじゃ無いかと言われているほどだ。そんな奴が、なぜ俺に付き纏うか、未だに不明だ。ちなみに俺の成績は聞くまでも無い。ずっと一位だったからな。もちろん下から。ダートンが居たからギリギリ卒業する事が出来た。その点では感謝している。
俺の住んでいる街は、表の人間では到底入れない、シャドー街。薄汚く、太陽、月の光はほとんどが遮られ、影ばかり。住んでいる奴も、ノットヒーロー、あるいはエネミーしか居ない。ヒーロー、民の敵の根城って訳だ。
アテもなく進んでいると、表の人間が住む、ライト街についた。
「ねぇ、あそこのカップル、絶対喧嘩中だよね。もっと荒らしに行く?」
「俺はパスだな」
「ちぇっ。ノリ悪〜」
俺は、とてつもなくデカい悪事をしたいんだ。誰もが恐れる、邪悪な…。こんな痴話喧嘩を荒らして何がかっこいいんだ? だが、こんなこと言ってても、学生時代では、空回りの連続。野望も叶わないまま歳食って、終わっちまうのかな…
と、その時。
「きゃー!」
女性の叫び声と共に、焦げた匂いが鼻に届く。
「あっちか!」
…いーーーやっ! まだこれからだ。この騒ぎで、一番悪く目立ってやる!
匂いと音のなる方に、俺達は向かった。
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ノットヒーローとは。
一つ、エネミーの手助け、救助。
二つ、ヒーロー、民を助けてはいけない。
三つ、本名、身分の情報を漏らしてはいけない。
四つ、自らも悪事に徹し、最高の悪人であること。
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悲鳴の声や、警察、消防も駆けつけ、ヒーローもかなり集まっている。その向こうには、燃え広がるショッピングセンター。
「あちゃー。またエネミーがやったのかな。ヒーロー勢揃いだし、袋叩きになるのがオチ。ここで暴れるのはめんどくさいし、戻ろう〜」
ダートンが、回れ右をして、来た道を戻ろうとしていたが、
「いや、これだ! ここで、もっと被害を大きくして、ヒーローを束ねて倒せば、俺が一番目立つ!」
「え? 正気?」
「ど正気! これやった本人も何か訳あってやったんだろ。あ、ダートンはココにいろ。お前がいると、俺が目立たねぇ」
ダートンから離れて行く俺に、何か言っているが、アドレナリン、ビンビンの俺にはもう何も聞こえない。ヒーロー達が居る間を堂々と渡り、燃え広がるショッピングセンターに向かう。その間、ヒーロー、警察は俺に向かって、幾度となく攻撃をしてくるが、そんなもの効かねえよ。だってよう、俺は、常人には出せないパワーと絶対防御を兼ね備えているからだ。
「おぉー、いい感じに凄いことになってんじゃん。ただ… あちーーー」
燃え広がる炎の中を通って来た俺は、絶賛火傷し放題だ。ラブディフェンスは、俺に向かって攻撃して来た時のみ、発動する。俺に攻撃したと見做されないものには、しっかり負傷する。
「全身火傷で、俺が倒れちまう前に、まずはここをぶっ潰して、あとは、ヒーロー狩りと行こうか」
俺が悪に染まり、目立っている映像が頭の中に流れ、ニヤケが止まらない。
「誰だ!」
物陰に誰か、俺に話しかけて来ている。ゆっくりと姿を現した者は、全く火傷は無いが、酷く枯れきっている。
「ヒーローなのか? だったら、俺は悪くないぞ。お前らが悪いんだ!…」
「おいおいおい、待て。 俺がヒーローだって? 俺はアクマ。ノットヒーローさ」
「ノットヒーロー!? 外にヒーローが集まっていただろうが! あの状況で、ここに来られるのは、ヒーローしか居ない。俺をハメようとしたって無駄だ!」
「わーったよ。じゃあ、この炎、お前のだろ? それ、俺に打ってみろよ」
「はぁ!? …まぁ、ヒーローの一人でも、潰せたら御の字か。ここから出られたとしても、ヒーローの袋叩きにされて、捕まるのがオチだからな。最後に暴れてやるよ!」
「いい、覚悟だ。さぁ早く。打て」
「さっきからお前何ニヤニヤしてんだよ、気持ち悪い。…デスファイヤー!」
炎の野郎は、俺に放った攻撃で、俺の能力を見る事なく、力尽きてしまった。窓を覗くと、さっきから動いていないダートンの姿があり、プリップリに、身の引き締まった俺の脚で窓をかち割る。そのまま、炎の野郎はダートンの元へ届き、数人のヒーローは、ダートンを追いかけていった。
ダートンは俺の脳裏に、
「めんどくさい仕事、押し付けんなばーか」
と、文句を言って、姿を消した。
「わりぃダートン。帰ったら、俺の晴れ舞台記念として、飯奢ってやるよ」
さぁ、今からが本番。なんだが… 一つ疑問がある。
「なぜ、ここにヒーローが居ない。なぜ、外に居て、中に入ってこないんだ」
辺りを見渡しても、人がいる気配がない。既に、民は救助されたって事か? なんだか、拍子抜けだな。ヒーローに先越されたのは気に食わねぇが、民なんぞ、俺の晴れ舞台を見る観客にすぎねぇ。いなくなっちまっても、それは困るから好都合か。後で、立ち尽くしているヒーロー達をやるのが俺の本命だからな。
「早くしねぇと、ヒーロー達に消火されちまう。炎の中、俺が再び外に現れるのが、かっこいいのに、勿体ねぇ。よし、いくか」
1階にいる俺は、天井に向かって拳を振り上げようとした、その瞬間。
「たくま…? たくまなの…?」
と、聞き覚えのある声が聞こえた。頭ではそんなの無視して、今頃ぶっ潰してたはずなんだが、体が勝手に聞こえた声の方へ頭を動かしていた。
「やっぱり、たくまだったのね。火もまだ消えないようだし、はやくここから出なさい…」
その声の正体は、俺の母親だった。全身に火傷を被い、息をしているのもやっとの状態だ。
「おふく… アンタだって、何でここにいるんだよ。早く出ろよ!」
あぁ、俺何やってんの? これぶっ壊して、ヒーロー狩りして、ヒーローより目立つんだろ?
「お母さんはね、足がこんな事になってて、もうだめなのよ。あっ、その格好もしかして、ノットヒーローになれたの? おめでとう。お母さん、息子におめでとうとも言えなかったなんて、本当最悪な母親だわ… って、もしかして今、この建物バーンッと壊して、ヒーローを倒そうとしているところ? だったら、私なんか気にしないで、早くやりな! 最後に、たくまの晴れ姿見れるだけで、お母さん幸…」
「もう分かったって。アンタには全部お見通しって事だろ? 俺がこうなっても、応援してくれるのは、アンタだけだ。だけどな、俺はアクマだ。もうたくまじゃねぇ。悪いな」
俺は、母親を抱き抱えて、出口に向かった。もうココをぶっ壊すのはやめだ。お袋を引き渡した後、盛大にあばれてやる。
「アクマさんね! 分かった、もう覚えた! って、一文字変えただけで、優しいのは変わってないのね。これから、大変だと思うけど、お母さん応援してるから。頑張れ、ノットヒーロー」
母親の言葉に返答せずも、陽だまりのような笑顔で俺を見る母親が、視界の端で確認できた。
さぁ、始めようか。
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