6-1話 新たな目的
時が流れ、俺と緑頭の特訓も、残り1日となった。
「どうや、心境は」
毒リンゴの弟子、シップスが、俺達に尋ねた。特訓中、毒リンゴが任務で居ない間は、シップスが面倒を見てくれていた。見た目は若いが、毒リンゴの弟子というだけあって、なかなかの強さを持っていた。
「まぁ、明日、会長のとこに乗り込みに行って、直接確かめるしかねぇよ」
「そうですね。その時になるのを待つしか出来ないですね」
俺達の言葉に、ニヤつくシップス。
「この一年頑張ってたしな。ま、これで剥奪されても俺が盛大に笑ったるから、安心しとき」
「こんな時に、不吉な事言わないで下さいよ…」
「へっ。そんな事にならねぇよ」
「さっきの自信はなんやねん、グリ。アクマ見習えよ。こんな自信満々で、無理やった時の顔が想像したらおもしろーてしゃーないわ」
「シップスさん、性格悪いっすね。みど…グリも、性悪シップスさんの言うことに、間に受けすぎなんだよ」
「ア…クマ、言いづらいなら、無理に呼び名変えなくてもいいですよ」
「お前こそな。貴方でいいんだぞ」
「プッ。ふはははっ!! お前ら、友達の期間長すぎて、下の名前呼ぶのに気恥ずかしい付き合いたてのカップルか!」
まぁ、そんなこんなで、俺は緑頭の事を、グリと呼び、緑頭は、アクマと呼ぶ関係になっていた。まだやりずれぇがな。
「よし、じゃあ、最後の特訓やるぞ!!」
「おす!!」
「おぉーーす!!」
俺とグリはシップスさんに最後の特訓を受けていた時、毒リンゴはある人物に会っていた。
―――――――――――――――――――――――――
翌日、本部にある会長室に向かうはずの俺とグリは、会長の指示で、訓練場に移動していた。
「実践で見られるってことですよね…」
「ぽいなぁ…。気に入られればOKって話じゃなさそうだな」
「そういえば、ダートンさんと最近会ってないんですか?」
「あー、そうだな…。アイツが忙しそうってのもあるけど、俺がノットヒーローとしてこれからも名乗れる状態でアイツに会いたいと思ってよ、最後に別れてからは、一度も連絡してねぇんだ。だから、この後、連絡するつもりだ」
「へぇ〜。じゃあ、ここで認められないとですね」
「ったりめーだ」
ピ、ピピピピッ。ゴゴゴゴゴ…
訓練場の扉は、厳重に閉ざされていて、暗証番号を打ち、解除されないと開かないシステムになっている。
「おぉ、来たか。なんのようだ?」
「へ?」
「え?」
「おいおい冗談に決まってるだろ。お前ら、緊張しすぎだ。もっと肩の力を抜け」
「ちょっとー、驚かさないで下さいよ会長〜」
「本当です。もうすでに剥奪されたのかと…」
ブンッ!!
シュッ! スタッ!!
会長は悪趣味だ。肩の力を抜けと言いながらも、俺達が気を抜いた隙に間合いを詰めてきた。だが、この一年、特訓に命をかけていた俺達は、すぐに対応することができた。
「特訓をしているという話は、聞いておったが、さすがだね。でもこれはどうかな」
会長が指を鳴らした途端、姿が消えた。少しの焦りもあったが、俺達はすぐさま目を瞑り、気配を感じ取る。
トンッ。
背を向けて立っていた俺達の間に現れた会長は、俺達の首へ向かって手拳を放ったが、同時に、手拳を腕で防いだ。
「ほー。視覚不要術を習得したのか。ま、このぐらいは想定内。どんどん行くぞ」
パチンッ。
再び、指を鳴らした会長の姿は消えたが、気配は遠くに離れた。目を開けると、俺達から50メートルは離れている。
「ここからは我慢比べだ。どこまで耐えれるかな」
「我慢比べだと?」
「が、我慢比べ…」
距離が離れている相手からの我慢比べとは、遠距離攻撃ができる能力を使ってくると判断した俺達は、絶対防御と、グリの新技、木盾を使い、会長からの攻撃に備えた。
すると、会長は肩幅に開き、拳を前に突き出すだけで、能力を使った反応がみられなかったんだ。
まさかとは思うが…。
「ふんっ!」
会長の鼻息と共に繰り出される拳の風圧で、身体が後ろにゆっくりと押し出される。まだ50メートルの距離に居て、俺達の能力を使っているのにも関わらずな。
「では、次はこれでどうかな」
少し前に進んだ会長は、30メートル程離れている時点で立ち止まる。
ブリンッ、ブリンッ!
両手で、俺の自慢の足が細く見えるほどの、分厚い太ももを揺らし、キュッと引き締めると、一歩下がった。その勢いで、急速に回転し、30メートルも離れた所から、回し蹴りを俺たちに向かって放ったのだ。未だ能力の使った反応は無い。これは、まさかではなく、確信へと変わった。会長は、能力を俺達に一度も使っていない。全て、本人の身体能力のみで行っている事だと。
力の差を見せつけられた俺達は、ただ、攻撃に耐えるしか出来ることは無かった。
どんどん近づいていき、最後は、ゼロ距離となった。
「なんだね、その顔は」
「い、いやぁ…」
そう、ゼロ距離なのだから、会長の額と目しか見えないのだ。ノットヒーロー界トップの人間と、少し間違えればキスしてしまいそうな距離にいることが、気恥ずかしいと共に、悍ましい圧が伝わってくる。
「では、最後だ。歯食いしばってくれよ」
「おす!!」
「おおおす!!」
ブンッ!!
最後は、シンプルに、拳を俺達の腹部に向かって撃ち放った。段階を踏んでいた事と、緊張感が相まって、俺達の疲労はかなり溜まっていたが、それでもまだ、能力は発動していたままだった。だが、足を滑らせながら耐えるどころでは無く、悪役に相応しいほどの、綺麗な回転で、後方に吹き飛んでしまったのだ。
俺達は壁に打ち付けられ、起き上がるのもやっとの状態で、ゆっくりと立ち、酷く落ち込んだ。会長の腕試しをクリアできなかったことで、Aランクへの昇級に失敗したと確信したからな。
ゆっくりと歩いて近づいてくる会長は、不気味な笑みを浮かべている。俺達は目を背け、次に聞いた言葉に、耳を疑った。
お読みになって頂きありがとうございます。
次回も覗いて頂けると幸いです。




