5-3話
「ふぁあ、おはよう…って、目のクマ!!」
「あぁ、おはよう。そんなに酷いか?」
「いつも目つき悪いのに、目の腫れも相まって、すっんごいキリッとしてるんだけど」
「そうか。ならいいじゃねぇか。ずっとここに居るのも悪いし、俺はもう出るわ」
「ちょっと待って! これ持っていきな!」
シュッ…! パサッ…
「ん? バームクーヘン? なんでだ?」
「糖分摂らないと、今日持たないよ。毒なんか入れてないから、特訓前に食べなよ」
「あぁ、ありがとう。じゃ、行ってくる」
「ゔぅ! 凛々しい…」
眩しそうに俺を見るシュークリームの家を出た後、昨日の特訓場所へ向かった。
「おぉー、昨日は助かったようだな。感謝しろよ、シュークリームに」
俺は、シュークリームからもらった、バームクーヘンを頬張りながら、手を挙げ、礼を伝えた。
「昨日? 何かあったんですか?」
先に着いていた緑頭が俺に問いかけると、
「あぁ〜、コイツ昨日さ… ぅゔ!」
毒リンゴが話し始めた瞬間、口を塞いでやった。
「貴方、やっぱり、家無かったんですね」
「なんでわかる!? いや、家はあったけど!? 色々あって入れなかっただけで…」
「はいはい、僕に強がりたい気持ちは分かります。ランクの時点で僕に負けてますし、寮を出てからしばらく経つのに、家を借りられない=(イコール)収入が無いって事ですよね。分かります分かります」
「いーーやっ、なんもわかってねぇけど!? 一応、会長にストップかけられる前は、多少なりと収入あったし。しかもお前に張り合って誰得なん?」
「おいおい。特訓の時間が無くなるぞ、若造達。ちなみに、コイツ(アクマ)、女の家に泊まったぞ」
「おぉぉぉうい!! 毒リンゴさんよ、いらん事言わないでもらえます!?」
「そ、そんな… 女でも家入れた事が無いって言ってたのに… やっぱりあの時取る(・・)しか無かったのか…」
「おいおいおい、大事なものは、大事な所にしまっておけ。家はあった。差し押さえされて入れなかった。毒リンゴに案内された家が、たまたま、中坊の時の女友達だったんだよ」
「なんです? 最悪の事が起きたはずなのに、最後美味しく終わる感じ!?」
「だーかーら」
「はいはい、俺が悪かった。だから、お前らは、とりあえず走れ」
緑頭との言い合いに割り込んで来た毒リンゴは、とてつもない力で俺と緑頭の背中を押し、走らざる得なかった。そうでないと、自分の命を守れないほどに。
毒リンゴが言わなきゃこうはならなかったんだよ。けっ! 親切なのか親切じゃないのか分かんねぇわ。
爆速で走っている時に、何か目の前を通り過ぎた気がした…
と、思えば、気のせいじゃ… なかった事も…なかった。
俺が目にしたと思ったのは、ほぼ裸の男が、凧に引っ付いて飛んで行ったように見えたが、なぜ裸なのか、正月でもないのに、凧が上がっているのもおかしいという理由で、無かった事にした。緑頭の方を見ると、目が合い、きっと同じ気持ちだろう。
そして、走れと言われて走り続けた俺達だが、どこまで走れとは言われていない。まさかとは思うが、今度こそ、毒リンゴがトンヅラここうとしてんじゃないのかと、不安を隠しきれない。毒リンゴは何考えてんのか分かんねぇが、根は悪い奴じゃなさそうだし、昨日の飯や、宿の事もある。俺はAランク以上にならないと、俺の夢が果たせなくなるし、今トンヅラこかれると、困る!! 緑頭と結託し、前に進む体に抗いながら、元の場所へ方向転換する。徒競走が始まったかというぐらい、全速力で走った。
「これだけはお前に負けん!」
「それ、それ以外は負けを認めるって事ですよね?」
「はぁーん!? 人の粗探しをするぐらいなら、前見て走れ…よ?」
俺は目を擦る。見てはいけない物を見てしまったからだ。ノットヒーローである俺が、サツに連絡しないといけないと思ったほどに…。
「前を見て走らないといけないのはお前だろ。なんだその顔は。この格好に、ヒヨってんじゃねぇよ。お前、アクマっつう奴だろ? 邪魔だから、今から消す。だろ? 華」
ん…?
裸の変態が後ろに向かって話しかけた時、緑頭と俺は、恐る恐る凧の後ろを覗いた。
「後ろにも居たのかよ! しかも女!…は、一応服着てるのか」
「おい、今、ちくしょーとか思ってないだろうな?」
俺の胸ぐらを掴み、裸の男がキレている。
「おいおい、男だからといって、誰もがみんな女の裸が見たいわけじゃないぜ。な? 緑頭…」
緑頭はバツが悪そうな顔をしている。こいつって奴は…。
「そうでも無さそうだぞ? 人の女にやらしい目で見るなんて、獣だな」
「いや、お前に言われたかねーよ」
緑頭と声が揃った。
「誰だか分かんねぇけど、俺の才能に妬いてるなら、思い知らせてやるよ。ノットヒーローとして、超えれるもんならやってみろ」
「いや、貴方、底辺じゃ…」
「おい、仲間内でdisってくんな」
俺と緑頭の会話を聞きながら腕を組み、首を傾げる裸の男は、何か言いたげだ。
「なんだよ」
「いや、俺達、ヒーローだけど?」
「はぁーー!? どっからどう見ても、こっち側の人間だろ。ライト街でその格好、許されんのかよ!」
「カップルヒーローとして、そこそこ有名だぞ?」
「だってよ。緑頭、気づかなかったのか? コイツらのこと」
緑頭は、裸の男と、凧にまだ引っ付いたままの華をじーっと見つめ、何か思い出した顔をした。
「あぁ!! 知ってます! 僕が居た時と、女の人が違ってたから、気が付かなかった…」
「いやいや、この男の方が印象強いだろ!! こんな格好で」
「そうですね。僕も不思議です」
「と、言うことは、前からカップルでしか活動していなかったのか。実はコイツ、一人で戦えないんじゃね? クソ弱なんじゃね?」
そう緑頭と話していると、裸の男は、頭の血管が浮き上がりまた怒っている様子。
「なんだよ、なんか言うことあるのか?」
すると、裸の男ではなく、凧に引っ付いたままの華が口を開いた。
「アンタら、あんまり調子乗ってると、知らないよ。隆、Sランクだから、一応」
「おい、一応ってなんだ…」
裸の男に親指を差す華。その言葉を聞いて、俺はやる気に満ち溢れ、緑頭は恐怖により、ゾクゾクし始めた。
「おい、隆! 俺を消すんだろ? 来いよ」
「ちょ、貴方、何で挑発するんです!? 聞きましたよね、S!ランクだって!」
「お前、調べたら、Cランクらしいな。底辺の野郎が、俺に楯突くとは良い度胸だ」
「ほらほらほら〜! 格上の人に喧嘩売ってどうするんですか!」
俺の挑発に乗ってくる隆に、焦る緑頭。そんな所に聞き慣れた声が聞こえた。
「おぉー、来ないと思ったら、面白そうな事してんじゃねぇか」
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