5-4話
「喧嘩売られたんだけどよう、手ぇ出すなよ」
顔を見ずとも声で分かった俺は、毒リンゴを引き留めた。
「ったりめーだ。こんな良い機会ないぞ、アクマ。お前みたいなCランク相手に、上位ヒーローが来ることなんてまぁ無いからな」
「わーってるよ」
「えぇーー、ちょっと貴方、ほんと何を…」
ワタワタする緑頭に、毒リンゴは喝を入れる。
「緑頭!! 特訓も大事だが、実戦で得れることもある。怖かったら、アクマに任せても良いんだぞ?」
「…それは嫌です」
「よーし。なら、ワタワタしてないで頑張れ。これに勝ったら、お前にだけ褒美をやる」
「おーーっす!!」
「え? 俺には?」
毒リンゴは俺の言葉に対しての返答が無い。褒美がなくとも、やってやるけどよう…。
緑頭と言葉を交わす間も無く、隆が俺に向かって来る。その状況に合わせて、突っ立ってるだけのフラワーに、
「枝柱!」
先制攻撃を与える緑頭。そして、フラワーの脚に、枝が巻き付く。だが、
バサッ!!
「え、え、えぇ〜〜!!」
フラワーは、凧を羽のように扱い、空中に浮いていく。動きを封じる為に出した技は、逆効果だったのだ。
緑頭の事が心配だが、俺も接近戦で追い込まれている。未だ、能力を使っているようには見えない。生身の力で俺を圧倒するとは、Sランクというのも、嘘じゃなさそうだ。
「Cランクは、この程度なのか。お前はCではなく、Eランクじゃないのか?」
「ねぇんだよ、そんなランクは。悪かったな、底辺で」
まだ未完成だが、昨日やった特訓のおかげで、なんとか持ち堪えている。
「避けるだけじゃ、終わらないの知ってるか?」
ん? さっきとモーションが違う。これはフェイントか? それとも…
「俺魂!」
「んがっ!あっあっ……」
右でも左でもない。真正面から、綺麗なアッパーを喰らった。能力を使ったように名前をつけているが、間近で見た俺には分かった。隆は、能力を持っていない。一般ピーポーだという事を。
能力を使える者は、相手が能力を使うと、武者震いが起きる。相手の能力に対してのセンサーみたいなものだ。でも、隆にはそれを感じなかった。能力無しで、Sランクまでに上がった人間に、俺はまだ出会った事がなかった。これから、俺よりも強い人間に出会っていく中で、まだまだ居るんじゃないかという恐れに、高ぶる闘争心。だが、今の相手はSランク。俺はCランク。対等に戦っても勝ち目は無い。遠慮なく、能力を使わせてもらうぞ。
「絶対防御」
俺が能力を出した途端、間合いを取る隆。俺の事を知っていたのだから、こうなるのは仕方ねぇ。だがな、俺のゴールデンタイムを無駄にするわけがねぇだろ、変態男!
すぐさま間合いを詰め、重い拳を隆に打ち付ける。そして見事にHIT!! だが…
「なんだ。お前のパワーはそんなものか。どうやら制限時間があるらしいな。お前のタイムアップがデッドエンドに変わる。せいぜい、悪あがきでもしてくれ」
能力無しでSランクまで伸し上がった実力は、伊達じゃねぇ。このままだと、隆の言う通りになっちまう。
焦っていた俺だが、早々に俺の絶対防御の効果が切れてしまった。
「はぁ。仕方ねぇな」
後ろから毒リンゴの声が聞こえた。
「おい! 手ぇ出すんじゃねぇって言っただろ!」
「手? 何も出してないが?」
「お、おう…。確かに。…って、出そうとしてんだろって事だろうがよ!」
「はぁ…。思春期がまだ終わってねぇんだな。貰えるもんは貰っとけ」
パスッ。
「は?」
毒リンゴが俺に投げたのは、アイマスクだった。
「まぁ、これで頑張れな〜」
コイツは鬼か!?
こんな時にも特訓を強いられる俺は、仕方なくアイマスクを付け、戦闘ポーズをとった。
「お前、いい加減にしてくれよ。実力の差に、もう気づいてるんだろ? 知らねーぞ、どうなっても」
隆が俺に話しかけているが、俺は集中する事でいっぱいいっぱいだ。耳に入った言葉はスーッと抜けて、周りの音、気配だけに神経を尖らせる。
「無視か。怖いもの知らずには、お説教が必要だなっ!」
来る!
足音がだんだん近くなっていくと共に、自然の風向きが変わるほどの風圧で、こっちに向かってきている。
ブン!!!
よし、避けれた。
「ちょっとはやるな。だが、遅い」
ブン!ボコォ!!
一発目は軽々避けれたが、二発目からはやられっぱなしだ。そりゃあそうだ。目を開けてても、力の差は歴然なんだから。だけどよう、ここでくたばる訳にはいかねぇ。
それから、殴られ続け少しずつ、音と気配の感知濃度が上がって来ている。一発、二発と、避け切れるようになって来た。避けるだけじゃ、俺の勝機は見えないがな。
「だんだん慣れて来たか。だが、避けるだけじゃあ、俺に勝てねぇよな。一発でもいいから、お前からも打ってこいよ。当たらねぇと思うがな」
わーってるんだよ、そんな事。避けることに神経使ってんだこっちは。
シュッ!スカッ… ボフッ!!
だろうな。こっちに向かって来るのを避けるのとは訳が違う。標的がどこにいるのか察知出来ても、そいつがどう動くか考えてる暇に次の攻撃が来る。
「アクマさーん。やられっぱなしですけど、大丈夫ですかー?」
毒リンゴの声だ。チッ。やられっぱなしの俺をみてニヤニヤしているのが、見ていなくても分かる。
「フェイントには自信があるって言ってなかったですかね〜」
フェイント? …そうか!!
毒リンゴの言葉を聞いた後、2歩後ろに下がって、体勢を整える。
「また逃げた。やる気ないんだったら、もうトドメを刺すけど、恨むなよ」
そう言って近づいてきた隆の拳が来た所に、わざと正面から受けた。そして、体勢を崩さず、横から強烈なパンチを入れる。
ボコッ!!
よし、入った!!
ずっと避け続けていた俺が、わざと当たりに来ると思っていなかった隆は、ふらつきながらも、体勢を戻す。
「これだけやってやっと一発。だが、これは記念だ。次で終わりにする」
息をスーッと吸い込む音がしている。吸引力が強すぎて、俺までも引き込まれそうだ。確かにさっきの一発で俺の体力はほぼ無くなった。どうにかしないと…
グルルルル…
なんでこんな時に腹の虫が鳴るんだ。こんな音を聞くと、余計に消耗するじゃえねぇか、くそっ…。
キュインキュインキュインッ!!
なんだこのパチンコで当たったような音は…
バコッ。プッスーーーン!!
身体が軽くなった気がして、試しに打ち込んだ拳が、めり込むように入った。
まともに倒せなかった隆が、遥か後方に吹き飛んでいく。
「なんだ、まだそんな力を残してたのか。この俺が相手だっつうのに、腹が立つねぇ。マージで、これで終わりにする。覚悟しろ」
すぐに戻ってこれない距離に居たはずの隆は、瞬きをする間に、俺の瞳では収まらない距離に詰めてきていた。だが、隙を作る暇もなく、身体が動き、俺の拳が隆の頭上に向かった頃に、『間合いを詰められた後、半歩下がって、拳を頭上に』と、思考が追いつく。
これか。2秒で考え行動するってのは。身体が先に動いているように見えるが、実際は、思考が脳に言葉として伝達される前に起きているだけで、先に考えれていた。今まで、直感で動いていた攻撃と全く違うぜ。
そして、隆が戦闘不能となった光景が、俺の目に映された後、緑頭の状況を確認する。
「フッ…」
俺のプリップリの脚をバネのようにして、緑頭の所へ飛んでいき、
パンッ!!
ハイタッチで称え合った。
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