灰は忘れない
象徴的な導入
時に――
世界は大きな音で壊れるのではない。
誤った理解によって、静かに崩れていく。
本編
灰は……まだ降り続いていた。
ゆっくりと。
まるで終わることを拒んでいるかのように。
――だが、ヤザンは動かなかった。
立ち尽くす。
表情もなく。
声もなく。
まるで……もうここにはいないかのように。
――
その手の中には、
小さな欠片。
……人形の一部。
――
沈黙。
――
そして――
内側で、何かが壊れた。
――
閃光。
――
小さな少女。
藁の人形が、その手から落ちる。
ヤザン――
かがみ込み、それを拾い上げ、
静かに差し出す。
不器用な微笑み。
誰からも教わったことのないもの。
――
別の手が――
乱暴にそれを奪い取る。
「その子に近づくな。」
冷たい声。
理解よりも、なお鋭く。
――
少女は振り返る。
彼の方を。
――
……アマニ。
――
断絶。
――
ヤザンは動かない。
だが、その指は――
人形の欠片を強く握りしめていた。
――
再び、閃光。
――
アマニが彼の腕の中で、
息を弾ませ、軽く笑う。
「あなた、本当に強いのね……」
――
彼はそっと彼女を下ろす。
――
彼女は見上げる。
まるで――
そこが、安心できる場所であるかのように。
――
断絶。
――
灰が降る。
――
呼吸が、乱れ始める。
――
最後の閃光。
――
「ヤザン……待って!」
――
彼女が近づく。
近すぎるほどに。
――
「私……」
言葉が止まる。
――
彼女の指が、彼の手に触れる。
ためらいがちに。
――
「忘れない……」
――
沈黙。
――
彼女は離れる。
だが、その瞳は――
離れなかった。
――
……言えなかった何か。
――
断絶。
――
現在。
――
人形の欠片は、
まだ彼の手の中にある。
――
だが――
その声は、もう存在しない。
――
「……アマニ……」
――
その名は、
壊れたように漏れた。
――
沈黙。
――
「……遅かった……」
――
囁き。
まるで自分のものではないように。
――
一瞬。
――
そして――
――
爆ぜた。
静寂。
ほんの一瞬――
すべてが引き裂かれる前の。
――
ヤザンは、ゆっくりと顔を上げた。
その目は――
もう以前のものではなかった。
――
「アアアアアアアアアッ――!!!」
――
それは叫びではなかった。
むしろ――
砕けた咆哮。
――
次の瞬間、
オーラが爆発した。
――
空気が裂ける。
足元の大地が歪み、沈み込む。
土が吹き上がり、
灰はこの場から排除されるかのように散った。
――
暴風がすべてを薙ぎ払う。
――
リンは後ろへ弾かれ、
倒れかける。
――
ケナンは腕で顔を庇い、
必死に踏みとどまる。
その目が見開かれる。
「……これは……恐ろしい……」
――
ヤザンを包むオーラは、
安定していなかった。
黒と白が入り混じり、
裂け、爆ぜ、また再生する。
――
まるで――
彼の内面そのもの。
――
咆哮は弱まった。
だが、圧は消えない。
――
リンは顔を上げる。
彼を見る。
――
一瞬、ためらい。
――
そして――
一歩、踏み出した。
「リン――来るな。」
――
だが、彼女は止まらない。
――
風が彼女を打つ。
吹き飛ばされそうになる。
だが――踏みとどまる。
――
もう一歩。
――
足が重い。
まるで大地が拒んでいるかのように。
――
「……ヤザン……」
――
かすかな声。
――
彼女は近づき、
手を伸ばす。
――
そして――
その手を、彼の肩に置いた。
――
一瞬。
――
オーラが揺らぐ。
――
そして――
消えた。
――
何かが、壊れたかのように。
――
ヤザンは固まる。
――
そして――
崩れ落ちた。
膝をつく。
――
呼吸が乱れる。
――
「……俺は……」
止まる。
――
「……俺が……原因だ……」
――
その声に、怒りはない。
あるのは――崩壊。
――
「……遅かった……」
――
拳が震える。
――
「……俺のせいだ……」
――
リンが叫ぶ。
「ヤザン!違う――」
――
彼女はさらに近づく。
――
「自分を責めないで……あなたじゃない……」
――
沈黙。
――
ヤザンは見ない。
――
手を持ち上げ、
それを見つめる。
まるで初めて見るかのように。
――
「……お前は……」
――
「……もう強い……」
――
沈黙。
――
「……何をした……?」
――
拳がゆっくりと閉じる。
――
「……何もしていない……」
――
静寂。
――
リンは言葉を失う。
ケナンもまた、沈黙する。
――
だがその目が――
すべてを語っていた。
――
この沈黙は、空白ではない。
――
耐えがたい重み。
――
やがて――
ケナンがゆっくりと近づく。
ヤザンの背後に立ち、
しばらく黙って見つめる。
――
そして、低く言った。
「……ヤザン。」
――
返事はない。
――
ケナンは彼の手を見た。
人形の欠片。
そして――
周囲の破壊を。
――
「……巣に戻った鳥を……見たことがあるか。」
――
沈黙。
――
「……何も残っていない巣をな。」
――
風が、わずかに弱まる。
――
「……雛は……消えている。」
――
リンが顔を上げる。
――
「……立ち止まらない。」
――
「……叫ばない。」
――
「……自分も責めない。」
――
ケナンはヤザンを見る。
――
「……それでも、生き続ける。」
――
沈黙。
――
「……止まれば――」
――
一瞬の間。
――
「……生きる理由すら、失うからだ。」
――
空気が静まる。
――
ヤザンは答えない。
――
だが――
その拳は、わずかに緩んだ。
――
灰は降り続ける。
――
今度は――
静かに。
――
まるで世界が、
再び呼吸を取り戻そうとしているかのように。
帰還
風を裂き、
黒き猛禽が空を進む。
その背に三人。
誰も話さない。
ヤザンは前方に。
視線は遠く、どこにも焦点がない。
リンはその背を見つめるが、
問いかけることはできない。
ケナンはただ、地平線を見ている。
言葉は――
もはや意味を持たなかった。
報せ
別の場所――首都。
門が荒々しく開かれる。
兵士がよろめきながら入る。
息は乱れ、目は恐怖に染まる。
「……村が……消えました……」
沈黙。
「……破壊されたのではない……何も残っていない……」
衛兵たちが顔を見合わせる。
恐怖が――広がり始める。
ハマンの部屋
ハマンは窓の前に立つ。
動かない。
ただ見ている。
まるで――
この日を待っていたかのように。
回想
数年前――
賢者ハールーンの書庫。
薄暗い光。
舞う埃。
十六歳のハマンが、
古い書物をめくる。
その目が止まる。
「……特異な血を持つ人間に、悪魔が宿る可能性がある……」
呼吸が変わる。
――
「それを読んでいるのか?」
静かな声。
振り返ると、ハールーンが立っている。
微笑んでいる。
「その書は……見た目以上に危険だ。」
本をそっと取り上げる。
「……しかも、完全ではない。」
ハマンの目が見開かれる。
「原本は……とっくに朽ちている。」
夜。
ハマンは戻る。
忍び込み、探す。
やがて見つける。
隠された空間。
朽ちた書物。
開く。
「……人に悪魔が宿る条件……」
読む。
時間が過ぎる。
――
「……特異な血統……」
凍りつく。
冷たい汗が流れる。
だが――
すべては理解できない。
現在
窓の前。
同じ沈黙。
ハマンの目が、ゆっくりと下がる。
長い静寂。
「……これは……私の望んだ結果ではない……」
拳が握られる。
「……シグラン……」
第137話 終




