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イザン:血の継承  作者: Salhi smail


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134/135

脅威が生まれた瞬間

【象徴的な序章】


ある種の勝利は――

決して大きな音を立てて訪れるわけではない。

それは整然とした静寂の中で訪れる――

安定のように見えるが、

実際には――

まだ始まってすらいない何かを、

先延ばしにしているに過ぎない。


中央広場――

そこには戦火は届いていなかった。

地面は清潔で、

建物は威厳を保ち、

旗は揺るぎなく掲げられている。


だが――

人々の表情だけが違っていた。


将軍たちは整然と並んでいる。

ユキナラ。

鋭さを失わぬコラミ。

ハスミ。

アズロンとの戦闘後、包帯を巻いたツシマ。

ヒカリ。

カグチ。


そして――

空席。

リコウザ。


最前列には――

ラカン。

アドナン。

アルダ。


その後ろには――

アミール、マヤ、ライド、ワエル、アナス、アスマ、ナダ。


静寂は――

奇妙だった。

安らぎではない。

ただの「待機」。


かすかな囁き。

「終わった……ついに。」


その瞬間――

空気が変わった。


ハマンが現れる。


沈黙は――

押し付けられたものではない。

生まれたものだった。


彼は静かに立ち、

全員を見渡し――


「……終わっていない。」


ざわめきが止まる。


一人の将軍――コラミが前に出る。

「総司令官。」

鋭い声。

「連合は壊滅しました。」

「国境も安全です。」

「なぜ戦争が終わっていないと?」


沈黙。


ハマンは――

「お前たちが戦っていたものは……」

一瞬止まり、

「本当の脅威ではなかった。」


緊張が広がる。


ラカンが低く呟く。

「……始まったな。」


マヤは彼を見る。

だが、何も聞かなかった。

――彼女も感じていたからだ。


ハマンが続ける。

「新たな脅威が現れた。」


空気が張り詰める。


「その脅威は――」

一拍。

「お前たちが知っている名だ。」


沈黙が、さらに重くなる。


「……シグラン。」


衝撃は混乱ではなく――拒絶だった。


「馬鹿な――!」

「あなたの息子だぞ!」

「何を言っている!」


将軍の一人が踏み出す。

「説明を求めます!」


再び沈黙。

だが今度は――対峙。


ハマンは怒らない。

声も荒げない。


「……息子は死んだ。」


静寂。


「残っているものは――」

「お前たちの知るそれではない。」

「そして……それは国境では止まらない。」


マヤの目がわずかに見開かれる。


この光景は――

彼女に過去を思い出させた。


同じ場所。

同じ沈黙。

同じ視線。


――ヤザンの名が呼ばれた時。


呼吸が重くなる。

「……やめて……」

小さく呟く。

「……もう、繰り返さないで……」


ラカンは気づいていた。

だが何も言わない。


ハマンが告げる。

「この瞬間より――」

「シグランは――」

一拍。

「存在的脅威と見なす。」

「排除をためらう者は――反逆とみなす。」


沈黙は――

もはや壊せない。


誰もが理解した。


ヤザンから始まったものは、

終わっていない。


そして今度は――

さらに悪い。


別の場所――

最も高い峰の上。

空気は薄く、音は消えていく。


ガルハが空を裂く。


その背に立つヤザン。

その後ろで、リンがしがみついていた。


風は激しく、

身体を引き裂こうとする。


だが彼女の腕は離れない。


彼女は彼の足元を見る。

淡い光――

足元に集まり、空気そのものに立っているかのようだった。


「バランス……?」

一瞬の間。

「それとも……エネルギー制御?」


ヤザンは振り向かない。

「バランスだ。」

「……そして、訓練。」


リンは握る力を強める。

「それだけじゃない……」

「必要に迫られて、覚えたものね。」


ガルハが急旋回し、上昇する。


風がさらに強くなる。

リンはさらに近づく。


沈黙のあと――

彼女は言う。

「ここまで来たのは……選択じゃなかったのね。」


ヤザンは微かに笑う。

「……それで十分だ。」


しばしの静寂。


リンは続ける。

「あなたをここまで導いた人……」

「普通じゃないでしょう。」


ヤザンは遠くの頂を見る。

「これから会う人だ。」


ガルハが降下を始める。

霧が割れ――

一軒の小屋が現れる。


ヤザン。

「この鳥の主であり――俺の師だ。」


着地。


風が収まり――

別の気配が漂う。


そこに立つ男。

ケナン。


五十代。

両手を背に、ただ立っている。


ヤザンが降りる。

リンも続く。


ケナンは二人を見る。

微笑む。

「女を連れてきたか。」

一瞥。

「しかも少し年上か?」


ヤザンが低く言う。

「やめろ。」


ケナンは笑う。

「分かってる。」

「お前は一生独りだな。」


ヤザンは無視する。


リンが前に出る。

「はじめまして……」

一瞬止まり、

「今は形式的な挨拶の場ではないと分かっていますが。」


沈黙。


「リンです。」

「リン・ザラン。」


ケナンの目がわずかに開く。

ヤザンを見る。


ヤザン。

「総司令官の娘だ。」


ケナンは再びリンを見る。

「……リン。」

「覚えていないか?」


リンは考える。

「……申し訳ありません……」


だが――

止まる。

見つめる。


「……待って。」

「あなた……」


目が見開かれる。

「狩人のおじさん……?」


ヤザンが振り向く。

「おじさん?」


リンが遮る。

「思い出した!」

「子供の頃、ウサギをくれた人!」


現在。


リンは微笑む。

「ありがとうございます。」

「あの日は……忘れていません。」

「ウサギだけじゃない。」

「私を“見てくれた”ことが。」


ケナンは静かに見る。

「大きくなったな。」


リンはヤザンを見る。

「私は選んだ。」

「彼に辿り着くための道を。」


ケナンはしばらく見つめる。

「その道は……何かを失った者しか選ばない。」


さらに低く。

「探しているだけじゃないな。」

「残されたものに、しがみついている。」


沈黙。


ヤザン。

「時間がない。」


ケナン。

「ここまで来ると分かっていた。」


そして――

「……もう戻れない。」


風が吹く。


ヤザンは動かない。

ただ一言。

「……始まった。」


遠く――

死んだ火山。


灰は静か。


だが――

動く。


中央に立つ影。


「お前は正しかった……」

「何も終わっていない。」


灰が舞い上がる。


「今――始まる。」


沈黙。


そして――


闇の中で、

何かが目を開けた。


第134話 完

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