爆発前の静けさ
✦ 象徴的な導入
いくつかの終わりは――告げられないと言われている。
大きな音でも、劇的な崩壊でもなく――
ただ、重い沈黙の中で。
埋められない空白だけを残して。
そして、脅威が突然消えるとき――
それは終わりを意味しない。
ただ――より悪い形で、再び現れることを選んだだけだ。
✦
戦場は――
もはや戦場ではなかった。
大地は引き裂かれ、
空気は淀み、
残響は――何も運ばない。
何かが――確かにここにあった。
だが――もう、ない。
✦
その中心に――
ハマンは立っていた。
動かない。
声もない。
その目は、虚空に縫い付けられたまま――
消えた何かを、まだ探しているかのようだった。
この程度の破壊には慣れているはずなのに――
この沈黙だけは、違った。
✦
少し離れた場所に――
ヤザンが立っている。
静かに。
異様なほどに、落ち着いて。
彼の視線は、ハマンでも地面でもなく――
ただ遠くへ。
何も見えない、その先へ向けられていた。
やがて、低く言う。
「……終わりじゃない」
わずかな間。
「……始まりだ。もっと悪いもののな」
✦
リンは――
二人のすぐ近くにいた。
体はまだ弱っている。
だが、その目は――もう以前のものではなかった。
ハマンを見る。
そこに恐怖はない。
代わりにあるのは――
重さ。
静けさ。
そして、はっきりとした意志。
✦
一歩、踏み出す。
「……戻らない」
沈黙。
「……あの城には」
最後に一度だけ、彼を見る。
「あそこは――最初から、家なんかじゃなかった」
✦
静寂。
そして――
「……むしろ」
わずかに間を置いて。
「……解放された」
✦
ハマンは答えない。
振り向きもしない。
だが――声だけが落ちる。
低く。重く。
「……ああなったのは……俺が許したからだ」
✦
沈黙。
今度のそれは――
さらに重かった。
✦
ヤザンは背を向ける。
何も言わずに――歩き出す。
✦
リンはその場に一瞬だけ残り、
後ろを振り返る。
これが最後だと知っているかのように。
そして――
歩き出した。
✦
ヤザンの後を追う。
✦
別の場所では――
誰もまだ知らない。
脅威が終わっていないことを。
✦
アルマザの国境では――
軍勢が旗を掲げていた。
勝利。
長い戦いの末の。
兵たちの声。
笑い。
張り詰めていたものが、ほどける音。
✦
首都近郊――
ラカン率いる部隊が立っている。
その傍らに――
アドナン、アルダ、ライド、マヤ、アスマー、アンス、ナダ、ワイル、アミール。
✦
ラカンは――
遠くを見つめていた。
静かに。
やがて呟く。
「……妙な感覚だ」
間。
「……あの力は……普通じゃない」
✦
マヤが振り向く。
「……何があったの?」
✦
その瞬間――
空気が圧縮される。
そして――
ハマンが現れる。
✦
一斉に沈黙が落ちる。
視線が集まる。
✦
彼は――誰も見ない。
ただ通り過ぎる。
まるで、誰もいないかのように。
✦
そして言う。
「……終わった」
✦
ワイルが息を吐く。
「……よかった……」
安堵。
だが――どこか不完全な。
✦
ラカンが一歩前へ。
「……総司令」
間。
「……シグランは?」
✦
沈黙。
✦
マヤは見ていた。
何かが――おかしい。
✦
ハマンは止まる。
振り向かない。
そして言う。
「……今は話すことじゃない」
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空気がわずかに張り詰める。
✦
「……すぐに分かる」
✦
「……緊急会議だ」
✦
背を向けて――歩き出す。
✦
誰も言葉を発しない。
だが――全員が後に続く。
その足取りは――
重かった。
✦
遠く――
ヤザンは歩いている。
迷いのない足取りで。
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立ち止まる。
空を見上げる。
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白い気配が――静かに溢れる。
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木にもたれ、待つ。
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リンは、それを見ている。
✦
ヤザンは言う。
振り向かずに。
「……戻ってくる」
「……次は、一人じゃない」
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そして振り向く。
静かな笑み。
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リンの中に広がるのは――
恐怖ではない。
静けさ。
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突然――風が強まる。
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巨大な影が空を横切る。
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大鳥が――雲を裂く。
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ヤザンが微笑む。
「……久しぶりだな、ガラフ」
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降り立つ巨鳥。
圧倒的な存在感。
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リンは驚きを隠せない。
「……どうして、そんなに信じてるの?」
✦
ヤザン。
「……従わせたわけじゃない」
わずかな間。
「……裏切らなかっただけだ」
✦
沈黙。
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彼は背に飛び乗る。
そして手を差し出す。
「……来い」
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リンは彼を見る。
「……変な人」
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「……なぜ?」
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リンは微笑む。
「……全部分かってるみたいなのに」
間。
「……何も言わない」
✦
ヤザンは一瞬だけ彼女を見て――
目を逸らす。
「……全部は、言う必要はない」
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リンは近づき、
その手を取る。
迷いなく。
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背に立つ。
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ガラフが首を動かす。
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ヤザンが小さく呟く。
「……やめろ」
✦
リンが微笑む。
✦
ヤザンも――
わずかに笑い、
そして、軽く笑った。
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リンは固まる。
その笑いに――
✦
遠い記憶が重なる。
✦
リース。
✦
風が強まる。
ガラフが翼を広げる。
✦
空へ――飛び立つ。
✦
背後に残る大地は――静かだった。
だが――空は違う。
✦ 第133話 終わり




