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僕は教室にいた。夕日が教室をオレンジ色に染めていた。机と椅子で教室はいっぱいであり、机に座ることしかできないくらい、余裕がなかった。
その光景を見たとき、僕はこれが夢だと分かった。ここは、僕の高校の教室だ。その教室の後ろ、窓際の席に彼女はいた。本を読んでいる彼女は、眠っているように静かで、穏やかだった。
どうしようか。僕が躊躇っていると、彼女は顔を上げこちらを見た。目が合い、浮かぶ笑顔。
「なにか用?」
彼女の澄んだ声が聞こえる。
「なに、読んでいるのかなと思って。」
僕と彼女との間には随分と距離があったと思ったが、お互いの声ははっきりと伝わった。
「夏目漱石って言ってもらいたい?」
「彼の心理描写の巧さは、何度読んでも飽きない。」
「あなたは?あなたは何を読むの?」
「安部公房でも、三島由紀夫でも」
「小林秀雄は?」
「ああ、そうなんだ。君は小林秀雄を読んでいるのか」
「私には、少し難しいかな。フロイト知ってる?ジークムント・フロイト」
「知ってる。ユングはどう?」
そこまで言うと、彼女は口元に手をあて小さく笑った。なんとなく気まずくなった僕は、視線をそらす。美しいが見続けるのは恥ずかしい、そんな感じだった。僕にとって彼女の笑顔は、あまりにも眩しい。
「こっちにおいでよ。」
顔を戻す。彼女は大きく、ゆっくりと頷いた。
大きく一歩踏み出す。踏み出したところで、目が覚めた。




