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バル  作者: 隣の猫
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アルラキス



大聖堂の扉を開いた瞬間、熱風がベスたちの頬を打った。


石畳には瓦礫が散らばり、逃げ惑う人々の悲鳴が街中に響いている。


黒い霧がアルセリアを包み込み、昼間だというのに空は夕暮れのように暗かった。


「ひどい……。」


アイラが息を呑む。


リシアは倒れている子どものもとへ駆け寄り、すぐに治療を始めた。


「ガルド!」


ベスが叫ぶ。


「住民の避難を最優先に!」


ガルドは頷く。


「レオン、アイラは西区へ!」


「リシアは負傷者を頼む!」


「ベス、お前は俺と来い!」


灰鷹は二手に分かれ、それぞれ駆け出した。




城門前では激しい剣戟が響いていた。


アルセリアの兵士たちが必死に防衛線を張っている。


その前に立つのは、黒い外套をまとった戦士たち。


胸には黒い翼の紋章。


「黒翼……!」


ルキウスが険しい表情で呟く。


「なぜ、このタイミングで……。」


ベスは白銀の剣へ手をかける。


「継承が……知られたのか。」


ガルドは短く答える。


「考えるのは後だ。」


「まずは守る。」


「……ああ!」




黒翼の兵が一斉に襲いかかる。


ベスは静かに白銀の剣を抜いた。


鞘から刀身が姿を現す。


神々しい輝きはない。


魔力が溢れるわけでもない。


それでも、不思議と手へ吸い付くような感覚があった。


「行く!」


踏み込む。


敵の剣を受け流す。


返す刃で武器だけを弾き飛ばす。


二人目。


肩を狙う一撃をかわし、そのまま柄で鳩尾を打つ。


三人目。


剣を振り上げた瞬間、白銀の刀身が滑るように軌道を描く。


最小限の力で敵の剣を逸らし、その喉元へ切っ先を突きつけた。


「まだ戦うか。」


黒翼の兵は答えない。


無言のまま後退し、再び構え直す。


「様子がおかしい……。」


ベスは眉をひそめた。


ガルドも同じ違和感を覚えていた。


「まるで命令だけで動いてやがる。」




その時だった。


ゴォォォォ……。


黒い霧が大きくうねる。


戦っていた黒翼の兵たちが、一斉に動きを止めた。


全員が同じ方向を見ている。


ベスの持つ白銀の剣だった。


数秒の静寂。


やがて黒翼の兵はゆっくりと剣を下ろす。


そして何も言わず、霧の中へ後退していった。


「退いた……?」


レオンが駆けつけ、目を丸くする。


「なんだったんだ、あいつら。」


誰にも答えは分からない。




その時。


黒い霧のさらに奥。


誰も踏み入れられない闇の中で、巨大な二つの光が静かに開いた。


金色の瞳。


あまりにも巨大な影。


その姿は霧の向こうにぼんやりと浮かぶだけで、全貌は見えない。


兵士の一人が震える声を漏らす。


「な……なんだ……あれは。」


次の瞬間、影は霧の奥へ消えた。


まるで最初から存在しなかったかのように。


ベスは白銀の剣を握り締める。


「今のは……。」


胸の奥がざわつく。


理由は分からない。


だが、本能だけが叫んでいた。


――あれは、今の自分では敵わない。




場面は変わる。


黒い霧を見下ろす高台。


ノクスは静かにアルセリアを見つめていた。


その視線の先には、白銀の剣を握る一人の少年。


「……継承者。」


長い沈黙の後、小さく笑う。


部下が尋ねる。


「追撃なさいますか。」


ノクスは首を横へ振った。


「不要だ。」


「今日の目的は終わった。」


「確認すること。」


「そして――目覚めを知らせること。」


部下は首を傾げる。


「目覚め……?」


ノクスは黒い霧の奥へ視線を向けた。


「あれも、もうすぐ動き出す。」


霧の向こうで、再び巨大な影がゆっくりと蠢く。


ノクスは静かに踵を返した。


「世界は、止まっていた歯車を回し始めた。」






















黒い霧はなおもアルセリアを包み込みながら、静かに世界の異変を告げていた。

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