表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
69/404

サルガス



翌朝。


ドルガたちと別れを告げた灰鷹は、古びた地図を頼りに山の北東へ進んでいた。


道なき道を進み、切り立った崖を越え、小川を渡る。


人の手が入った形跡は、いつの間にか完全に消えていた。


「本当に道は合っているのか?」


レオンが地図を覗き込む。


アイラは周囲を見渡した。


「ここまで自然が残っている場所は珍しい。」


「誰も近づかなかった……いえ、近づけなかったのかもしれない。」


ガルドは無言のまま先頭を歩き続けた。




昼過ぎ。


森を抜けた先で、一行は思わず足を止める。


そこには巨大な円形の広場が広がっていた。


石畳は長い年月を経てもなお崩れず、周囲には十二本の白い石柱が円を描くように並んでいる。


広場の中央には、空へ向かって伸びる黒い祭壇。


その表面には無数の星のような模様が刻まれていた。


「……これが、星降る祭壇。」


リシアは思わず息を呑む。


風が吹き抜けるたび、石柱同士が共鳴するような澄んだ音を響かせていた。




アイラは祭壇の刻印を夢中で写し取る。


「この文字……。」


「神代文字じゃない。」


「もっと古い。」


ガルドもゆっくりと頷いた。


「神殿より古い遺跡は、世界でも数えるほどしか存在しない。」


「ここは、その一つだ。」


ベスは祭壇へ近づいた。


その時だった。


左腕の獣爪――フェンリルが、かすかに反応する。


淡い光が爪の継ぎ目から滲み、低く震えるような音が響いた。


「……っ。」


ベスが足を止める。


フェンリルの光は次第に強まり、まるで何かに呼応するように脈打ち始めた。


次の瞬間――


頭の中へ、一つの光景が流れ込んできた。




夜空だった。


数え切れないほどの星々。


その光は一つ、また一つと地上へ降り注いでいる。


しかし、それは流れ星ではない。


人だった。


光をまとった存在が、大地へ静かに降り立っていく。


誰かが歓声を上げる。


誰かが涙を流す。


誰かが祈りを捧げる。


そこで景色は途切れた。




「ベス!」


リシアの声で我に返る。


「大丈夫?」


ベスは額に手を当て、小さく息を吐いた。


「ああ……。」


「少し、昔の景色が見えた。」


「昔?」


仲間たちが集まる。


ベスは見たままを話した。


ガルドは腕を組み、静かに考え込む。


「星から人が降りる……。」


「伝承にもない話だ。」




その時だった。


祭壇の中央が淡く光り始める。


石畳に刻まれた線が順番に輝き、一つの紋章を形作る。


「下がれ!」


ガルドの声で全員が距離を取る。


だが光は穏やかだった。


紋章の中央に、一枚の石板がゆっくりと浮かび上がる。


ベスは慎重に近づき、それを受け止めた。


石板には短い文章だけが刻まれていた。


『神は空より来たりし者。されど最初の民にあらず。』


誰も言葉を発しなかった。


神は最初の民ではない。


それは、この世界に神より前の時代があったことを意味していた。




突然、祭壇を囲む石柱が一斉に低く唸る。


ゴォォォ……


地面がわずかに震えた。


ガルドが剣を抜く。


「何か来る。」


森の奥から重い足音が近づいてくる。


ズシン……


ズシン……


木々が大きく揺れ、鳥たちが一斉に飛び立つ。


やがて姿を現したのは、岩のような身体を持つ巨大な獣だった。


全身を苔に覆われ、頭には古木のような角が生えている。


しかし、その瞳には激しい敵意ではなく、静かな威厳が宿っていた。


ガルドが息を呑む。


「……祭壇の守護獣。」


巨獣はベスたちを見つめると、石板を持つベスへゆっくり歩み寄る。


誰も動けない。


ベスは剣に手を掛けながらも抜かなかった。


巨獣は石板へ鼻先を近づける。


そして――


静かに首を垂れた。


まるで、古い誓いを確かめるように。


その直後、巨獣は身を翻し、森の奥へと消えていく。


残されたのは静寂だけだった。


ガルドは石板を見つめながら呟く。


「どうやら……。」


「この山は、お前を試すだけではない。」


「見定めてもいるようだな。」


ベスは石板を胸に抱いた。


一枚の石板。


だが、その重さは世界の歴史そのもののように感じられた。


そして誰も知らない。
























彼らの行動はすでに、山のさらに奥から見つめられていることを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ