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バル  作者: 隣の猫
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ルサルハグ



朝霧が遺跡を包んでいた。


崩れた石柱の間を風が抜け、木々の葉を静かに揺らしている。


灰鷹は焚き火の跡を消し、再び森の奥へと歩き始めた。


昨日見つけた石碑の欠片。


黒い鎧の集団。


そして、仮面の隊長が残した言葉。


そのすべてが、まだ胸の奥に引っ掛かっていた。




遺跡のさらに奥へ進むにつれ、道は細くなっていく。


やがて森が開け、巨大な断崖が姿を現した。


その岩肌には、一枚の巨大な石扉が埋め込まれていた。


高さは十数メートル。


表面には無数の紋様が刻まれ、中央には円形の窪みがある。


「……遺跡じゃない。」


アイラが目を細める。


「これは、何かを封じるための扉。」


リシアは静かに聖印へ触れた。


「強い力を感じる……。」


ガルドは石扉を見上げた。


「ここが入口だ。」


「第二神殿へ続く道の一つ。」




ベスはゆっくりと石扉へ近づく。


その瞬間だった。


胸元へしまっていた石碑の欠片が淡く光を放つ。


「……!」


石碑の欠片はまるで呼応するように震え始める。


円形の窪みからも同じ光が溢れ出した。


「まさか……。」


ベスは欠片を窪みへそっと当てた。


カチリ。


小さな音とともに欠片はぴたりとはまる。


次の瞬間。


遺跡全体が低く唸った。


ゴゴゴゴ……


石扉がゆっくりと震え始める。


全員が息を呑んだ。


しかし——。


扉は途中で止まった。


わずかに数センチ開いただけで、再び沈黙する。




「開かない……。」


レオンが力いっぱい押す。


びくともしない。


ガルドは静かに首を振った。


「鍵は一つではない。」


「この石碑も、その一部ということか。」


ベスは欠片を外そうとする。


だが動かない。


石碑は扉と一体化し、完全に溶け込んでいた。


「戻らない。」


アイラが静かに言う。


「つまり……。」


「集めた石碑は、この扉を開くための鍵。」




その時だった。


森の奥から、乾いた拍手が聞こえる。


パチ……パチ……パチ……


全員が武器を構える。


木陰から姿を現したのは、仮面の隊長だった。


その後ろには数人の黒い鎧の兵たち。


隊長は開きかけた石扉を見上げ、小さく息を吐く。


「やはり、お前たちだったか。」


ベスは一歩前へ出る。


「この扉を知っているのか。」


「知っている。」


隊長は迷いなく答えた。


「だからこそ、まだ開けるべきではない。」


「なぜだ。」


「資格が揃っていない。」


静かな声だった。


しかし、その響きには焦りが混じっていた。




「資格って何だ。」


レオンが問い掛ける。


隊長は答えない。


代わりに石扉へ手を添えた。


「急げば、この世界は二度と元へ戻れない。」


「俺たちは、それを一度見ている。」


その一言で空気が変わる。


「……一度?」


ベスが思わず聞き返す。


だが隊長はそれ以上何も語らない。


部下へ目配せをすると、そのまま踵を返した。


「次に会う時までに、答えを見つけろ。」


「さもなくば、お前たちはこの扉を開くべきではない。」


そう言い残し、黒い鎧の集団は霧の中へ消えていった。




誰も口を開かなかった。


ガルドは石扉を見つめたまま呟く。


「“一度見ている”……か。」


その意味を知る者は、ここにはいない。


だが確かなことが一つだけある。


世界の歴史には、誰かが隠し続けてきた「繰り返された過去」がある。


ベスは石扉へ手を触れた。


冷たい石の感触の奥で、微かな鼓動のような震えが伝わってくる。


それはまるで、


「まだ来るな。」


そう語り掛けているようだった。


灰鷹は扉を後にし、さらに山の奥へ歩き始める。


第二神殿への道は見つかった。






















だが、その門を開く日は、まだ先のことだった。

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