表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
61/396

メンキブ



霧の森を後にした灰鷹は、東の大陸北部を南下していた。


街道はやがて渓谷へと続き、その先には古い街道跡が残されている。


「昔は、この道が交易路だったらしい。」


リシアが古い地図を見つめながら言う。


「でも今は魔物が多くて、誰も通らない。」


ガルドは周囲を見渡した。


「だからこそ、人目を避けたい者には都合がいい。」


ベスも頷く。


黒い鎧の集団が向かったとされるのも、この渓谷だった。




昼過ぎ。


崩れた石橋の近くで、激しい戦闘音が響く。


灰鷹が駆けつけると、そこには黒い鎧の集団がいた。


だが、戦っている相手は人ではない。


巨大な黒い結晶を身体にまとった異形の魔物だった。


「暴走種じゃない……。」


アイラが息を呑む。


その魔物は、まるで結晶そのものが生きているようだった。




仮面をつけた隊長格の男が叫ぶ。


「そこへ入るな!」


次の瞬間、大地が砕けた。


黒い結晶が地中から無数に突き出し、渓谷全体を飲み込もうとする。


「散開!」


ガルドの号令。


灰鷹と黒い鎧の集団は、敵味方の区別なく結晶を避けながら戦う。


今は争っている場合ではなかった。




ベスは魔物へ斬りかかる。


だが剣が通らない。


「硬い……!」


その時、仮面の男が叫ぶ。


「胸を狙うな!」


「背中の核だ!」


一瞬だけ迷う。


敵の言葉を信じるべきか。


ベスはガルドを見る。


ガルドは静かに頷いた。


「今は目の前の敵を倒す。」


それだけだった。




ベスは左腕の獣爪を地面へ突き立てる。


勢いを利用し、大きく跳ぶ。


魔物の肩へ着地。


背中へ回り込む。


そこには、小さく青白く光る核があった。


「そこか!」


右手の剣へ全身の力を乗せる。


一閃。


核が砕ける。


巨体は咆哮を上げ、ゆっくりと崩れ落ちた。




静寂が戻る。


黒い鎧の集団も武器を収める。


仮面の男はベスへ歩み寄った。


「礼は言わない。」


「こちらも利用した。」


ベスは頷く。


「お互い様だ。」


短い会話。


だが敵意はなかった。




「一つ聞かせてくれ。」


ベスが口を開く。


「どうして石碑を集めている?」


男は少しだけ笑った。


「知れば、お前は引き返せなくなる。」


「もう引き返すつもりはない。」


その答えに、男は初めて興味を示したようだった。


「……そうか。」


少しの沈黙。


そして低く呟く。


「なら覚えておけ。」


「神だけが、この世界を歪めたわけではない。」


「人もまた、世界を壊せる。」


その言葉は、神への憎しみだけでは語れない重みを持っていた。




黒い鎧の集団は去っていく。


その背中を見送りながら、レオンが呟く。


「敵なんだか味方なんだか分からねえな。」


ガルドは静かに答えた。


「どちらでもない。」


「自分たちの信じる道を歩いているだけだ。」


ベスはその言葉を胸に刻んだ。




夕暮れ。


灰鷹は渓谷を抜け、小高い丘へ立つ。


眼下には東の大陸でも有数の交易都市が広がっていた。


港には各地から船が集まり、人々の声が風に乗って届いてくる。


そのさらに先。


雲を突き抜けるような巨大な山脈が、大地を分かつ壁のようにそびえていた。


「あれが……。」


リシアが見上げる。


ガルドは静かに答えた。


「天穿山脈。」


「古い文献では、『神々より古き時代の境界』と記されている。」


アイラが目を細める。


「黒い鎧の集団も、あそこへ?」


「ああ。」


ガルドは頷いた。


「おそらく、生き証人が口にしなかった真実も、その先にある。」




ベスは山脈を見つめた。


旅に出た頃なら、迷わず神だけを追っていただろう。


今は違う。


神。


魔物。


人。


古き種族。


黒い鎧。


すべてを知った先で、自分は何を選ぶのか。


その答えを、自分自身の足で見つけたい。


ベスは静かに笑った。


「行こう。」


仲間たちも頷く。


誰一人として迷う者はいない。


夕日に照らされた灰鷹の影は、一つになって長く伸びていた。


その先に待つのが希望か、それとも絶望か。


まだ誰にも分からない。


だが確かなことが一つだけある。


彼らはもう、「誰かに与えられた答え」を求めて旅をしているのではない。























自分たち自身の答えを見つけるために、歩いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ