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バル  作者: 隣の猫
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ベネトナシュ



灰鷹が巡礼の村を離れて三日。


街道沿いの森を進んでいると、金属がぶつかり合う音が聞こえた。


「誰か戦ってる。」


アイラが木の上から周囲を見渡す。


「二人……いや、一人だけ!」


ガルドが短く命じる。


「急ぐぞ!」




森の開けた場所。


そこでは一人の少年が必死に剣を振るっていた。


年は十四、五歳。


粗末な革鎧を身に着け、身体中が泥だらけだ。


相手は三体の狼型魔物。


少年は恐怖で震えながらも、一歩も退かない。


「うあああっ!」


剣を振るう。


だが動きは荒く、力任せだった。


魔物の爪が肩をかすめる。


「危ない!」


リシアが叫ぶ。


その瞬間だった。


ガキィン!


ベスの剣が魔物の爪を受け止める。


左腕の獣爪で一体を弾き飛ばし、そのまま身体をひねる。


右の剣が流れるような軌道を描き、二体目を斬る。


最後の一体が飛びかかる。


ベスは半歩だけ下がり、獣爪で前足を払い、剣の柄で首筋を打ち抜いた。


魔物は倒れ、静寂が戻る。


少年はその場へ座り込んだ。


「た、助かった……。」




村へ戻る道中、少年は何度も頭を下げた。


「僕はカイル。」


「父さんが騎士だったんです。」


「でも去年、魔物に……。」


その言葉に、ベスは足を止めた。


どこか昔の自分を見ているようだった。


「だから強くなりたくて。」


「誰も守れなかった父さんの代わりに。」


カイルは拳を握る。


「でも、全然駄目で……。」




夕方。


野営地。


カイルはベスへ頭を下げる。


「お願いします!」


「剣を教えてください!」


ベスは困った顔をした。


「俺が?」


レオンが笑う。


「昔なら断ってただろうな。」


アイラも小さく微笑む。


「今なら教えられる。」


ガルドは黙って腕を組んでいる。


それが許可だった。




翌朝。


ベスは一本の木剣をカイルへ渡した。


「まず構えて。」


カイルは力いっぱい剣を握る。


「違う。」


ベスは優しく手を添えた。


「そんなに力を入れたら、すぐ疲れる。」


「え……?」


「昔の俺もそうだった。」


少し照れながら笑う。


カイルもつられて笑った。




稽古は三日続いた。


「勝とうとしなくていい。」


「まず生き残ること。」


「剣だけを見るな。」


「相手の肩と足を見る。」


「怖い時ほど息を止めるな。」


それはガルドやシオンから教わったこと。


ベスは自分の言葉として、少しずつ伝えていく。


ガルドは遠くからその様子を見ていた。


レオンが隣へ来る。


「団長。」


「教えるの、上手いですね。」


ガルドは小さく笑う。


「いや。」


「あいつはまだ下手だ。」


「だが。」


その目は優しかった。


「相手に寄り添える。」


「それは剣では教えられん。」




三日後。


別れの朝。


カイルは深く頭を下げた。


「ありがとうございました!」


ベスは腰の袋から、小さな革紐を取り出した。


そこには、小さな鉄の爪が一つ結ばれている。


昔、壊れた獣爪の部品だった。


「これを。」


「え?」


「俺も最初は何もできなかった。」


「だから。」


「強くなったら、今度は君が誰かを助けてあげて。」


カイルは大切そうに受け取る。


目には涙が浮かんでいた。


「はい!」




灰鷹が再び旅立つ。


森の出口で、カイルは姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


ベスも振り返していた。


「昔のお前にそっくりだったな。」


ガルドが言う。


ベスは少し笑う。


「違います。」


「俺よりずっと素直でした。」


一同が笑う。


その笑い声が森に響く。




その日の夜。


焚き火を囲みながら、リシアがベスへ尋ねる。


「教えていて、どうだった?」


ベスは炎を見つめる。


「不思議だった。」


「ガルド団長やシオンさんが言っていたことが、今なら少し分かる。」


「誰かが成長する姿を見るのって……。」


少し照れくさそうに笑う。


「嬉しいんだね。」


ガルドは何も言わない。


ただ、焚き火の向こうで静かに頷いていた。


その姿を見て、レオンがぼそりと呟く。


「団長も、今そんな気持ちなんでしょうね。」


ガルドは無言のまま、小石をレオンへ投げた。


「痛っ!」


笑い声が夜空へ広がる。























その星空の下で、ベスは気づかないうちに、一人の戦士から、一人の”導く者”へと、ゆっくり歩き始めていた。

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