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バル  作者: 隣の猫
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メグレズ



第一神殿の調査を終えた灰鷹は、山を越え、西へ向かう街道を歩いていた。


その道中、小さな巡礼の村へ立ち寄る。


村の中央には大きな神像が建ち、人々は毎朝、その前で静かに祈りを捧げていた。


ベスは足を止める。


神を憎む自分と、神へ感謝する人々。


同じ世界なのに、まるで別の景色だった。




宿で話を聞くと、村の近くの森に魔物が現れ、巡礼者が襲われているという。


「灰鷹の皆さん、どうか助けてください。」


村長が深く頭を下げる。


ガルドは迷わず頷いた。


「依頼を受けよう。」




その日の夕暮れ。


森へ入ると、魔物はすぐに姿を現した。


角を持つ大型の獣。


以前なら突撃していただろう。


だが今のベスは違う。


「レオン、左!」


「アイラ、木の上!」


「エイン、背後を頼む!」


仲間へ声を飛ばす。


戦場全体を見る。


自分だけが戦うのではない。


皆で勝つ。


その意識が自然と身についていた。


連携は美しかった。


魔物は短時間で討ち取られる。




村へ戻ると、人々は歓声を上げた。


子どもたちが灰鷹の周りへ集まる。


「ありがとう!」


「すごい!」


ベスは少し照れながら笑う。


その時だった。


「待ちなさい。」


凛とした声が響く。


白い法衣をまとった一人の青年が、人々の間から歩み出る。


年は二十代半ば。


腰には一本の長剣。


胸には、神殿を象った銀の紋章。


彼は静かにベスを見つめた。


「あなたが、灰鷹のベスですね。」


「そうだけど。」


青年は深く一礼した。


「私はアルト。」


「神殿騎士団に所属しています。」




ベスの表情が変わる。


神殿騎士団。


神々に仕える者たち。


自然と空気が張り詰める。


アルトは敵意なく続けた。


「あなたが神を憎んでいることは知っています。」


「ですが、一つだけ聞かせてください。」


彼は真っ直ぐに問いかける。


「あなたは、神を見たことがありますか?」


ベスは黙る。


ない。


見たことはない。


「……ない。」


アルトは静かに頷いた。


「私もありません。」


その答えは、ベスの予想外だった。




「では、なぜ信じる?」


思わず問い返す。


アルトは村を見渡した。


笑う子ども。


畑を耕す老人。


夕食を囲む家族。


「私の父は魔物に襲われました。」


「神は助けてくれなかった。」


ベスは目を見開く。


「それでも?」


「はい。」


アルトは穏やかに笑う。


「神を信じているのではありません。」


「希望を捨てないと決めた人々を、私は信じています。」


その言葉に、ベスは返す言葉を失う。




夜。


村の広場。


アルトは神像の前で静かに祈っていた。


ベスはその姿を遠くから見つめる。


憎む者。


信じる者。


どちらも家族を失っている。


それなのに、選んだ道は真逆だった。


「どうして……。」


ベスは初めて思った。


「もし自分が違う人生を歩んでいたら、アルトのようになっていたのだろうか。」


その問いは、誰にも聞こえなかった。




翌朝。


出発前。


アルトはベスへ一本の小さな木彫りの御守りを渡す。


翼を広げた鳥が彫られている。


「これは?」


「神のためではありません。」


「旅人の無事を願う、村のお守りです。」


ベスは少し迷う。


そして受け取った。


「……ありがとう。」


アルトは笑う。


「いつか。」


「神について、剣ではなく言葉で話しましょう。」


「その日を楽しみにしています。」




灰鷹が村を離れる。


歩きながらレオンがベスの肩を小突く。


「難しい顔してんな。」


ベスは苦笑した。


「世界って、思ってたよりずっと広いな。」


ガルドはその言葉を聞き、静かに頷く。


「そうだ。」


「だから旅をする意味がある。」


風が吹く。


ベスは胸元に増えていく旅のお守りへ触れた。


白い花。


風鈴。


竹札。


方位磁針。


木札。


そして、新しい鳥の御守り。


それぞれに違う想いが込められている。


どれも大切だった。




その頃、誰もいない第一神殿。


世界の生き証人は、静かに空を見上げていた。


「人は変わる。」


小さく呟く。


「……だからこそ、希望を持ってしまう。」


その視線の先には、一羽の白い鳥が東へ向かって飛んでいた。


その鳥を見送りながら、生き証人はほんのわずかに微笑む。


ベスは気づいていない。






















だが彼はもう、最初より少しだけベスを認め始めていた。

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