5
三日後。
村人たちの埋葬は終わった。
焼け跡には風だけが吹いている。
墓標の前に立つベスは、一歩も動かなかった。
その背中を見つめるガルドは、静かに口を開く。
「これからどうする。」
返事はない。
「親戚は。」
「……いない。」
「帰る家は。」
「ない。」
ガルドはゆっくりとうなずいた。
「なら、俺たちと来い。」
ベスは振り返る。
その目には迷いがなかった。
「強くなれる?」
「簡単じゃない。」
「毎日、死ぬほど苦しい。」
「それでも生き残れば強くなる。」
ベスは即座に答えた。
「行く。」
その返事に、ガルドは小さく笑う。
「そう言うと思った。」
荷馬車へ向かう途中。
一人の鍛冶師風の男が声を掛ける。
「団長。」
「こいつに渡す物がある。」
布に包まれた一本の武器。
右手用の剣ではない。
左腕へ装着する鉄の籠手だった。
重厚な黒鉄。
表面には獣の牙を思わせる紋様。
男が留め具を締める。
ガチリ。
低い音が響く。
次の瞬間。
カシャン――。
三本の鋭い刃が手の甲からせり出した。
まるで猛獣の爪。
ベスは驚きながら左手を見つめる。
「これは……。」
「獣爪ガントレット。」
鍛冶師は言う。
「剣だけじゃ、お前は生き残れない。」
「その怒りを制御できるまで、その爪がお前の牙になる。」
ベスはゆっくり拳を握る。
爪が朝日に光った。
その姿は、人というより獣だった。
ガルドは一本の剣を差し出す。
父が使っていた剣より短い。
初心者向けの片手剣。
「右手には剣。」
「左手には牙。」
「だが覚えておけ。」
「最後に人を守るのは武器じゃない。」
「心だ。」
ベスは何も答えない。
まだ、その言葉の意味は理解できなかった。
荷馬車が動き始める。
焼け跡となった故郷が少しずつ遠ざかる。
ベスは振り返る。
父と母の墓が小さく見えた。
首元の銀の首飾りを握る。
「必ず帰る。」
「神を殺したあとで。」
その誓いだけは、少しも揺らがなかった。
だがベスは知らない。
これから待つ旅で。
剣より重いものを背負い、
牙より鋭い悲しみに出会い、
そして、人間らしさを少しずつ取り戻していくことを。
少年はまだ、獣だった。
だがその旅路は、獣を英雄へと変えていく、、、。
その第一歩が、静かに始まろうとしていた。




