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バル  作者: 隣の猫
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アルビレオ



シオンの道場を後にして五日。


蒼嵐の街道は少しずつ賑わいを見せ始めていた。


旅人、商人、武芸者。


様々な人々が東の都《青嶺》を目指して歩いている。


ベスもその流れに身を任せながら歩いていた。


腰には剣。


左腕には獣爪。


胸元には、シオンから渡された竹札。


そして荷物には、風鈴の村でもらった小さな風鈴が揺れていた。


旅の思い出が、一つずつ増えていく。




昼過ぎ。


街道脇で、大きな怒鳴り声が響いた。


「何度言わせる!」


「こんな刀じゃ売り物にならん!」


若い青年が地面へ叩きつけられる。


年はベスと同じくらい。


着物姿で、腰には折れた刀だけを差していた。


親方らしき男はため息をつく。


「鍛冶を辞めろ。」


「お前には才能がない。」


青年は何も言い返せなかった。


拳を握りしめるだけだった。




その日の夕方。


ベスは川辺で青年と再会する。


青年は折れた刀を見つめたまま動かなかった。


「……大丈夫か?」


青年は苦笑する。


「大丈夫に見えるか?」


「俺はレン。」


「鍛冶師になりたかった。」


折れた刀を撫でる。


「でも何を作っても折れる。」


「親父にも、親方にも見放された。」


風だけが静かに流れる。




ベスはレンの刀を手に取る。


刃は確かに脆い。


だが、柄は驚くほど丁寧だった。


握りやすく、重心も悪くない。


「これ。」


「持ちやすい。」


レンは驚く。


「……え?」


「柄を握った瞬間、分かった。」


「誰かが使うことを考えて作ってる。」


「だから、好きだ。」


その一言に、レンは黙り込んだ。


今まで一度も、そんなことを言われたことがなかった。




翌朝。


ベスは頼んだ。


「一本だけ。」


「俺の剣を直してくれないか。」


レンは戸惑う。


「俺が?」


「失敗するぞ。」


「それでもいい。」


「旅の途中で折れたら、その時は笑おう。」


ベスは自然に笑った。


その笑顔を見て、レンは静かに頷いた。




三日間。


レンは寝る間も惜しんで剣を研ぎ続けた。


折れないように。


誰かを守れるように。


初めて、「認められたい」ではなく、「役に立ちたい」と思えた。


完成した剣をベスへ渡す。


「ありがとう。」


ベスは軽く振る。


以前よりも手に馴染む。


「すごくいい。」


レンは照れくさそうに笑った。




別れ際。


ベスは代金を払おうとする。


だがレンは首を振る。


「いらない。」


「その代わり。」


少し恥ずかしそうに続ける。


「いつか有名になったら。」


「また俺の剣を使ってくれ。」


ベスは力強く頷いた。


「約束だ。」


二人は固く握手を交わした。




その日の夜。


レンは壊れかけた工房へ戻る。


親方は何も言わず、一振りの刀を差し出した。


「打ってみろ。」


レンは目を丸くする。


「まだ……。」


「終わったとは言っとらん。」


親方は背を向ける。


「三日前のお前の目とは違う。」


「今なら作れる。」


レンは深く頭を下げた。


その瞳には、もう迷いはなかった。




旅を続けるベスは、自分の剣を見つめる。


「少し軽い。」


「でも、頼もしい。」


剣は、人を斬るためだけにあるのではない。


誰かの想いを受け継ぐものでもある。


そう感じた。




そして遠く離れた丘の上。


黒衣の男が静かに微笑む。


「また一人。」


「お前に救われた。」


彼は空を見上げる。


「人は弱い。」


「だからこそ、支え合える。」


その言葉には、どこか切ない響きがあった。



風は青嶺へ向かって吹き続ける。


ベスの旅も終わりへ近づいていた。


あと一か月。


その先には、灰鷹との再会が待っている。






















だが同時に、ベスを狙う者たちも、少しずつその包囲を狭め始めていた。

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