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バル  作者: 隣の猫
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435/437

434



黒い蛇が。


一斉に迫る。


ベスは。


踏み込みと同時に、重心を一気に落とした。


直前まで立っていた位置を、黒い影が横切る。


空を裂く音。


遅れて、雪が削り取られる。


だが。


それで終わらない。


蛇は一度通り過ぎたあと、空中で身体を折り曲げた。


関節のない動き。


軌道が“戻る”。


獲物を追う形に変わる。


「……!」


ベスは。


左へ半歩ずらしながら剣を横に払う。


刃が一匹の蛇の胴を捉える。


確かに斬った。


だが。


手応えが軽い。


斬られた瞬間、蛇は霧のようにほどけ、刃の軌道に沿って“流れた”。


そのまま、剣の死角へ回り込む。


ベスは即座に腕を返す。


獣爪を前へ。


ガキィン!!


黒い蛇の頭部と、銀の爪が正面から噛み合う。


押し合いではない。


“食い合い”に近い衝突。


爪が押すと、蛇は形を崩して圧を逃がす。


圧が抜けた瞬間、再び形を作り直し、別方向から噛みつく。


ベスはそのまま腕を振り抜く。


力で押し切る。


黒蛇は弾かれ、雪の上に落ちる。


しかし。


落ちた瞬間に、地面の雪を巻き上げながら再構築される。


「……再生じゃない。動き続けてるだけか」


ベスは息を短く吐く。


その瞬間。


視界からカゲロウが消えた。


「!」


正面。


いない。


右。


いない。


左。


いない。


“気配が切れる”。


次の瞬間。


背後の空気が裂けた。


ベスは振り向くのではなく、腰を回して剣を後方へ差し込む。


キィンッ!!


黒刀がそこにあった。


刃と刃が噛み合う。


衝撃が腕を通って肩まで抜ける。


ベスの足が雪に沈む。


押されている。


だが、押し切られない。


刃の向こうに、カゲロウの顔がある。


不敵な笑み。


そこに“力み”はない。


ただ、刃を合わせているだけのような自然さ。


そのまま、カゲロウはもう一本の黒刀を下から引き上げる。


軌道は直線。


ベスの腹部へ。


ベスは剣を引き抜かない。


代わりに、前脚を横に割り込ませる。


ガキィン!!


黒刀の軌道を“受ける”のではなく、“横に逸らす”。


刃が前脚の外側を滑り、雪へ逃げる。


カゲロウはそのまま一歩引く。


その瞬間。


地面の雪が“割れた”。


足元から黒い蛇が噴き上がる。


ベスの立っていた位置を正確に噛み砕く軌道。


「……っ!」


ベスは跳ぶ。


踏み切りは一瞬。


だが、その一瞬の“元の位置”を蛇が完全に潰す。


空中へ逃れたベスへ、別の蛇が上から折れ曲がって追う。


ベスは空中で体をひねる。


剣を逆手に持ち替え、蛇の頭部を横から叩く。


ガンッ。


弾く。


蛇は空中で崩れ、霧のように散る。


ベスはそのまま着地。


雪が膝まで沈む。


着地と同時に、視線を走らせる。


カゲロウがいない。


「……」


少し離れた雪面。


一本の黒刀が“刺さっている”。


だが、カゲロウの姿はその近くに立っている。


残った一本を片手で持ち、軽く回す。


ベスの視線が黒刀に触れた瞬間。


その刀が動いた。


地面に刺さったまま、わずかに“揺れる”。


次の瞬間。


雪の上を滑り出した。


直線ではない。


蛇のように、左右へうねりながら進む。


ベスの背後へ回り込む軌道。


「……!」


ベスは振り返る。


同時に、黒刀の周囲から黒蛇が一斉に立ち上がる。


地面から“増える”のではない。


刀の動きに合わせて“形が生まれる”。


ベスは剣を構える。


だが、正面ではない。


反対側。


カゲロウが踏み込んでくる。


二本目の黒刀。


キィン!!


刃が噛み合う。


同時に、背後から黒刀が迫る。


ベスは獣爪を後方へ振る。


ガキィン!!


爪が黒刀を弾く。


だが、弾かれた黒刀は止まらない。


空中で一度回転し、軌道を変える。


再びベスの背へ。


「……!」


ベスは剣を引き抜き、背後へ一閃。


剣と黒刀が擦れる。


火花。


その隙に、正面のカゲロウがさらに踏み込む。


刃が重なる。


前脚で受ける。


爪と刀が押し合う。


その“押し合い”の裏で、地面の蛇が再び動く。


一つを止めれば、別が来る。


上。


下。


背後。


刃。


蛇。


刃。


蛇。


すべてが“連動”している。


ベスは後退する。


一歩。


また一歩。


雪が深く沈む。


呼吸が荒くなる。


その向こうで。


カゲロウはずっと同じ表情のまま、黒刀を構え直す。


黒蛇が腕に絡みつく。


まるで“刃の延長”のように。


ベスは剣を握り直す。


「……まだだ」


カゲロウの笑みが、わずかに深くなる。


黒蛇が鎌首をもたげる。


そして。


白い雪原を。


一斉に駆けた。

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