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バル  作者: 隣の猫
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433/437

432



黒い霧が。


ゆっくりと漂っていた。


その中心に。


幹部が立っている。


仮面には。


いくつもの亀裂が走っていた。


それでも。


倒れない。


幹部が。


ゆっくり顔を上げる。


「……。」


その視線が。


上空へ向く。


アイラ。


風の羽を広げ。


空に浮かんでいる。


幹部の周囲で。


黒い霧が膨れ上がる。


傷ついた身体を。


包み込む。


霧が。


傷口を覆い。


血を止める。


「まだ……終わっていない。」


低い声。


黒い霧が。


さらに濃くなる。


その瞬間。


アイラの指が。


弦へ触れた。


だが。


奏でない。


弓を。


静かに構える。


風が。


変わった。




風の羽が。


まず“揺れ”を失った。


空気の流れに乗るのではなく。


一点へ引き寄せられるように収束を始める。


次に。


羽の輪郭が崩れ始める。


羽を構成していた風の粒子が。


細い流線へとほどける。


一枚の羽が。


一本の風線へ。


変わる。




その風線が。


さらに集まる。


背中に残っていた羽が。


順番にほどけていく。


一枚ずつではない。


外側から内側へ、層を剥がすように収束していく。


外縁の羽が消え。


中層の羽が流れ。


最後に。


中心の羽だけが残る。




その中心が。


弓へ向かう。


風線は。


弦に触れた瞬間。


“音”に反応するように震えた。


ギリ……。


弦の振動が。


風線をさらに圧縮する。




ここで初めて。


風は“形”を持つ。


細い光の矢。


まだ不安定な一本。


だが。


弦がもう一度鳴る。


ギリ……。




その振動で。


光の矢が太くなる。


風線が重なり。


密度が上がる。


空気が押し潰されるように。


一本の軸へ固定されていく。




さらに。


背中に残っていた最後の風が。


一気に吸い込まれる。


ゴォォォ……!!


雪原の風が。


逆流するようにアイラへ集束する。




幹部が。


それを見上げる。


「……何をする。」


答えは。


ない。




アイラは。


ただ。


弓を引く。


ギリ……。


弦が。


最大まで張られる。




その瞬間。


完成する。


風の羽は消え。


そこにあるのは。


一本の“矢”だけ。


風の粒子が圧縮され。


光を帯び。


空間そのものを歪ませる矢。




幹部の黒い霧が。


一斉に広がる。


無数の影が。


アイラへ向かう。


だが。


矢は動かない。


まだ。


放たれていない。




アイラの瞳が。


幹部を捉える。


「……。」


指が。


離れる。




瞬間。


轟音。


ドォォォォォォンッ!!




風の矢が。


雪原を。


一直線に貫いた。


黒い霧を。


正面から。


吹き飛ばす。




幹部の身体が。


一瞬。


見えなくなる。


次の瞬間。


黒い霧が。


巨大な渦となって。


弾けた。




雪が。


一気に舞い上がる。


風が。


山肌を揺らす。




そして。


静かになった。




雪が。


ゆっくり落ちてくる。


その中心。


黒い霧だけが。


残っていた。


幹部の姿は。


ない。


ただ。


雪の上に。


割れた仮面が。


落ちている。


ヒビの入った黒い仮面。


それだけが。


そこに残っていた。




アイラは。


空にいた。


風の羽は。


もうない。


ただ。


静かに。


風の流れだけが。


彼女の周囲に残っている。




誰も。


言葉を発しなかった。


やがて。


ガルドが。


割れた仮面へ目を向ける。


「……終わったな。」


風が。


雪原を。


静かに吹き抜けていった。

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