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――キィン。
弦の音が。
雪原へ響いた。
その瞬間。
空が“割れた”ように見えた。
雲ではない。
風そのものが。
裂けている。
次の瞬間。
空から。
風の矢が降り注いだ。
ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!
それは雨ではない。
雪でもない。
“空気が刃になって落ちてくる”現象だった。
一本。
二本。
十本。
数え切れない。
だがそのすべてが。
同じ軌道ではない。
まるで意思を持つように。
戦場を“選別”している。
灰鷹の周囲だけが。
奇妙な静寂に包まれる。
風の矢は。
彼らを避けていく。
まるで。
そこだけ“存在しないもの”として扱われているかのように。
レオンの横を。
風の矢がすり抜ける。
刃が触れる寸前で。
空間ごと“ずらされた”ように逸れる。
リシアの肩すれすれを。
一本の矢が通過する。
だがその軌道は。
彼女の呼吸の間を読むように。
一拍だけ遅れている。
エインの頭上を。
矢が抜ける。
髪一本すら乱さない。
ボルグの盾には。
一つも触れない。
まるで。
“そこに当てる必要がない”と判断されているかのように。
そして。
敵には。
容赦なく降り注ぐ。
身喰らう蛇の者たちが。
一斉に動いた。
だが。
遅い。
風の矢は。
“落ちてくる”のではない。
“選ばれた場所に現れる”
雪を穿つ。
黒い外套を貫く。
肉を裂く音すら。
遅れて聞こえる。
「ぐっ!」
「何だ、この数は!」
悲鳴が。
矢の雨に飲まれていく。
レオンが。
踏み込む。
「今だ!」
大剣が。
一人の蛇を吹き飛ばす。
その横から。
リシアが。
細剣を突き出す。
一閃。
別の蛇の“逃げ道そのもの”を刺し潰す。
「まだ!」
リシアが。
声を上げる。
レオンが。
すぐに反応する。
大剣を受け止めた蛇へ。
小剣が走る。
キィンッ!
弾く。
体勢が崩れる。
そこへ。
リシアの細剣が入る。
一人。
また一人。
二人は。
互いの隙を。
互いに埋めながら。
確実に。
“風の雨の中で生き残れる者”だけを削っていく。
その少し後ろ。
エインが。
大弓を引いた。
狙いは。
すでに崩れた敵。
ヒュッ!!
矢が飛ぶ。
だがその矢は。
アイラの風の矢が作った“空白”を通っていく。
まるで。
道が最初から用意されていたかのように。
「次じゃ。」
ボルグが。
その横へ立つ。
大楯を構え。
エインの前へ出る。
「任せろ。」
風の矢が。
二人の周囲を。
“避けている”。
当たらないのではない。
当てる必要がないのだ。
エインが。
その背後から。
次の矢を番える。
ボルグが。
空を見上げる。
「……すげぇな。」
その視線の先。
アイラが。
空を駆けている。
風の羽を広げ。
弦を奏でるたび。
空そのものが震え。
“矢という形をした風”が生まれる。
その一つ一つが。
敵の位置を理解している。
その一方。
神の先兵は。
白い翼を大きく広げた。
バサァッ!!
羽が。
一斉に展開する。
風の矢が。
白い羽へ次々と突き刺さる。
だが。
それは“防御”ではなく。
空間の押し合いだった。
羽が。
世界を押し返している。
矢が。
世界を貫こうとしている。
その均衡の中で。
先兵は動けない。
防御に。
すべてを割かれている。
その瞬間。
ガルドが。
踏み込んだ。
灰色の霧が。
身体の周囲から。
一気に溢れ出す。
ゴォォォ……ッ。
それは霧ではない。
“死の残響”が形を持ったものだった。
剣へ。
集まる。
さらに。
集まる。
灰色の霧が。
刃を完全に覆う。
剣の形すら。
消える。
そこにあるのは。
ただ“終わり”だけ。
ガルドが。
低く構えた。
一歩。
踏み込む。
雪が。
爆ぜる。
先兵が。
羽を閉じる。
だが。
遅い。
ガルドが。
振り抜く。
灰色の霧を。
最大まで纏わせた。
一閃。
ズァァァッ!!
白い羽が。
“存在ごと削られるように”裂けた。
その奥へ。
灰色の刃が。
通り抜ける。
先兵の身体が。
止まる。
一瞬。
世界が静止する。
そして。
白い羽が。
崩れるのではない。
“消えていく”。
先兵の身体が。
雪へ落ちる。
ガルドは。
剣を下ろす。
灰色の霧が。
ゆっくりと消えていく。
その視線が。
最後に。
一人の男へ向いた。
黒い霧を。
全身に集めている。
幹部。
まだ。
立っていた。
致命傷だけは。
避けている。
ガルドと。
アイラの視線が。
同時に。
幹部へ向いた。
雪原には。
風だけが。
吹いていた。




