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バル  作者: 隣の猫
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430



雪原に。


暴風が叩きつけられていた。


視界は白く潰れ、地面と空の境目が消えていく。


吹き荒れる雪は横殴りに流れ、耳の奥で絶え間なく唸りを上げていた。


ゴォォォォ……ッ。


風はただの空気ではない。


刃のように肌を削り、鎧の隙間へと潜り込んでくる。


その中で。


一つの影が。


空にあった。


アイラ。


風の羽を広げ。


雪と風の渦の中を、滑るように駆けている。


足は地を離れ。


だが落ちる感覚はない。


むしろ。


風そのものに支えられている。


耳に届くのは、暴風の轟音だけではない。


その奥に。


細い流れの音がある。


風が裂ける音。


風が集まる音。


そして――弦のように張り詰めた空気の震え。


アイラはそれを“聞いて”いた。


視界の中で、雪の流れが線になって見える。


渦を巻く場所。


途切れる場所。


そこに風の“道”がある。


その道を辿るように、身体が自然と動く。


踏み込むのではない。


落ちるのでもない。


風に乗り、風の隙間を滑っていく。


背中の羽が一度大きく開くたびに、暴風が一段深く鳴った。


ゴォン……ッ。


そのたびに、空間そのものが押し広げられる。


地上から見上げる者たちの視界では、ただ白い嵐の中に影が走っているようにしか見えない。


レオンが。


目を見開いたまま呟く。


「……飛んでやがる。」


その声は風に飲まれそうになりながらも、確かに届いた。


リシアは。


吹き付ける雪を手で遮りながら、空を見上げる。


「……あれが、風の中……?」


言葉は途中で途切れる。


風が強すぎて、思考すら押し流される。


エインは。


弓を構えたまま、目を細める。


「風の流れが……全部、あいつに集まっている。」


見えているのは空ではない。


風の“構造”そのものだった。


ボルグは。


大楯を地面に突き立て、踏ん張る。


「……化け物かよ。」


その声は、半ば風に消えた。


ノアは。


雪まみれになりながらも、目を輝かせている。


「アイラ、すごい!」


灰猫は。


その腕の中で、静かに目を細めた。


「……風が、従っておるな。」


ガルドは。


何も言わない。


ただ。


空を駆ける影を見上げている。


その目には、驚きではなく確信があった。


――届いたのだ、と。


アイラは。


空から仲間たちを見下ろす。


雪と風の壁の向こうに、小さな影が並んでいる。


その一つ一つの動きが、はっきりと見えた。


風が視界を遮っているはずなのに。


むしろ、風が“見せている”。


アイラの口元が。


わずかに緩む。


小さく。


笑った。


そして。


弓を構える。


指が。


弦へ触れる。


引かない。


ただ。


静かに。


風の流れに指を預けるように。















弦を――奏でた。

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