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雪原に。
暴風が叩きつけられていた。
視界は白く潰れ、地面と空の境目が消えていく。
吹き荒れる雪は横殴りに流れ、耳の奥で絶え間なく唸りを上げていた。
ゴォォォォ……ッ。
風はただの空気ではない。
刃のように肌を削り、鎧の隙間へと潜り込んでくる。
その中で。
一つの影が。
空にあった。
アイラ。
風の羽を広げ。
雪と風の渦の中を、滑るように駆けている。
足は地を離れ。
だが落ちる感覚はない。
むしろ。
風そのものに支えられている。
耳に届くのは、暴風の轟音だけではない。
その奥に。
細い流れの音がある。
風が裂ける音。
風が集まる音。
そして――弦のように張り詰めた空気の震え。
アイラはそれを“聞いて”いた。
視界の中で、雪の流れが線になって見える。
渦を巻く場所。
途切れる場所。
そこに風の“道”がある。
その道を辿るように、身体が自然と動く。
踏み込むのではない。
落ちるのでもない。
風に乗り、風の隙間を滑っていく。
背中の羽が一度大きく開くたびに、暴風が一段深く鳴った。
ゴォン……ッ。
そのたびに、空間そのものが押し広げられる。
地上から見上げる者たちの視界では、ただ白い嵐の中に影が走っているようにしか見えない。
レオンが。
目を見開いたまま呟く。
「……飛んでやがる。」
その声は風に飲まれそうになりながらも、確かに届いた。
リシアは。
吹き付ける雪を手で遮りながら、空を見上げる。
「……あれが、風の中……?」
言葉は途中で途切れる。
風が強すぎて、思考すら押し流される。
エインは。
弓を構えたまま、目を細める。
「風の流れが……全部、あいつに集まっている。」
見えているのは空ではない。
風の“構造”そのものだった。
ボルグは。
大楯を地面に突き立て、踏ん張る。
「……化け物かよ。」
その声は、半ば風に消えた。
ノアは。
雪まみれになりながらも、目を輝かせている。
「アイラ、すごい!」
灰猫は。
その腕の中で、静かに目を細めた。
「……風が、従っておるな。」
ガルドは。
何も言わない。
ただ。
空を駆ける影を見上げている。
その目には、驚きではなく確信があった。
――届いたのだ、と。
アイラは。
空から仲間たちを見下ろす。
雪と風の壁の向こうに、小さな影が並んでいる。
その一つ一つの動きが、はっきりと見えた。
風が視界を遮っているはずなのに。
むしろ、風が“見せている”。
アイラの口元が。
わずかに緩む。
小さく。
笑った。
そして。
弓を構える。
指が。
弦へ触れる。
引かない。
ただ。
静かに。
風の流れに指を預けるように。
弦を――奏でた。




