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「行きましょう。」
リシアの言葉に。
仲間たちが。
頷いた。
ベスを追うため。
雪道へ。
足を踏み出そうとした。
その瞬間。
白狐が。
空を見上げた。
リシアも。
つられて顔を上げる。
「……?」
何もない。
白い空。
降り続ける雪。
だが。
その瞬間から。
何かが変わった。
風が。
止まっている。
いや――止まったように“感じる”。
さっきまで確かにあったはずの、頬を撫でる冷たい流れが消えていた。
雪が落ちる音も。
遠くの木々が軋む音も。
すべてが。
一枚の布で覆われたように。
遠ざかっていく。
リシアの胸の奥に。
説明のつかない圧が沈んだ。
「……?」
喉が。
勝手に乾く。
呼吸の音だけが。
やけに大きく聞こえる。
白狐の耳が。
ぴんと立ったまま動かない。
黄金の瞳は。
空の一点から離れない。
リシアの背筋に。
遅れて冷たいものが走った。
「……何か、いるんですか?」
白狐は。
答えない。
ただ。
空を見つめ続ける。
その沈黙が。
逆に“答え”のように重かった。
次の瞬間。
雪が。
止まった。
完全に。
一片も。
落ちてこない。
世界から。
音が抜け落ちる。
風も。
呼吸も。
遠くの気配さえ。
消えた。
リシアは。
無意識に。
剣へ手を添える。
指先が。
冷たく震えている。
――嫌な静けさだ。
何かが来る前の。
“空白”。
その空白が。
長すぎる。
長すぎて。
逆に耳鳴りのように圧迫してくる。
そして。
白い空から。
それは落ちてきた。
一つ。
二つ。
最初は。
ただの影に見えた。
だが。
それは雪ではない。
黒い霧だった。
「……!」
音が。
戻らない。
落ちる音すらない。
ただ。
“そこに在る”という事実だけが。
雪原に刻まれていく。
黒い霧が。
地面に触れた瞬間。
雪が。
音もなく黒へと変わった。
染まるのではない。
侵食されるように。
境界が消えていく。
広がる。
静かに。
確実に。
呼吸の間隔が。
わずかに乱れる。
リシアの喉が。
小さく鳴った。
「……黒い霧。」
その声が。
やけに遠く感じた。
ガルドが。
即座に剣を抜く。
「全員、構えろ。」
その声だけが。
かろうじて“現実”に繋ぎ止める杭のようだった。
レオンが。
大剣を握る。
アイラが。
弓を構える。
ボルグが。
大楯を前へ出す。
エインが。
周囲を見回す。
だが。
誰も。
次の音を待っている。
何かが起きる“前”の。
引き伸ばされた一瞬。
霧の奥。
何かが。
いる。
見えない。
なのに。
確かに“そこにいる”。
そして。
黒い霧の中から。
ゆっくりと。
人影が立ち上がった。
「……。」
誰も。
声を出せない。
空気が。
さらに重くなる。
リシアは。
剣を握る手に。
力を込めた。
黒い霧の向こうで。
その男が。
顔を上げる。
虚無の使徒。
その瞬間。
“静寂が壊れた”。
黒い霧が。
一斉に動く。
剣。
槍。
鎌。
無数の武器へ。
形を変えていく。
リシアの背中に。
冷たいものが走った。
「……来ます。」
次の瞬間。
黒い刃が。
雪原の静寂を裂いた。




