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バル  作者: 隣の猫
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421/436

420



二人が。


同時に踏み込んだ。


カゲロウの右刀が。


ベスの剣へ。


左刀が。


獣爪へ。


キィンッ!!


ガキィンッ!!


両腕へ。


同時に衝撃が走る。


ベスは。


そのまま押し込む。


カゲロウの足が。


雪を削る。


一歩。


さらに一歩。


ベスが。


前へ出る。


剣を押し込む。


カゲロウが。


僅かに笑った。


「そうだ。」


その瞬間。


右刀が。


滑る。


ベスの剣から。


刃が外れた。


「!」


カゲロウが。


身体を捻る。


左刀が。


下から迫る。


ベスは。


獣爪で弾く。


そのまま。


剣を返す。


一閃。


カゲロウの肩を。


浅く捉えた。


黒い布が。


裂ける。


血が。


雪へ落ちた。


カゲロウが。


止まる。


ベスも。


止まった。


静かだった。


カゲロウは。


肩の傷を見る。


指先で。


血を拭う。


その指に触れた瞬間。


空気が変わった。


冷たいはずの雪山の空気が。


一瞬だけ“重く”なる。


まるで。


音が沈む。


ベスの耳に。


自分の呼吸だけが強く響いた。


カゲロウは。


笑った。


「……いい。」


黒刀を。


ゆっくり下ろす。


その刃の表面に。


黒い“滲み”が走る。


最初は。


墨を垂らしたような線だった。


だが次の瞬間。


それは“動いた”。


ぬるり、と。


刃の上を這う。


ベスの視線が鋭くなる。


「……?」


シャァ……。


音がした。


風ではない。


金属でもない。


耳の奥に直接触れるような、細い擦過音。


黒い滲みが。


刃の縁から浮き上がる。


空気に触れた瞬間。


それは形を持った。


細い。


長い。


蛇の輪郭。


だがまだ“完全な形”ではない。


煙と影の中間のように揺れている。


ベスの喉がわずかに動く。


(……魔力が“形を持っている”?)


カゲロウの腕へ。


肩へ。


黒い魔力が這い上がる。


その感触に、カゲロウ自身が一瞬だけ目を細めた。


だがすぐに。


それを“受け入れるように”息を吐く。


「……ああ。」


低い声。


満足に近い響き。


黒い蛇が。


もう一段、濃くなる。


視覚が歪むほどの“圧”が生まれた。


ベスの足元の雪が。


わずかに沈む。


踏んでいないのに、押されている。


触覚としての圧力。


空間そのものが重くなる。


シャァァ……。


今度は複数。


刃の周囲で音が重なる。


黒い蛇が。


一本ではない。


二本。


三本。


刃の縁から“分裂”するように増えていく。


それぞれが。


カゲロウの呼吸に合わせて揺れた。


まるで。


生きている。


ベスの背筋に。


冷たいものが走る。


(……剣じゃない)


(“生き物”だ)


カゲロウが。


黒刀を握り直す。


その瞬間。


蛇たちが一斉に“目”を開いた。


赤い光。


いや、光ではない。


“視線”のような圧。


ベスの心臓が一拍遅れる。


カゲロウは。


その反応を見て、静かに笑った。


「ここからが。」


一歩。


雪を踏む。


その足音すら。


やけに遠く聞こえる。


「本当の楽しみだ。」


黒い蛇が。


一斉に“息を吐いた”。


シャァァァァ……!!


空気が裂ける。


ベスは。


剣を握り直す。


だがその瞬間にはもう。


黒い蛇が。


視界いっぱいに迫っていた。

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