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バル  作者: 隣の猫
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スレスト

第四百十六章 雪の夜


雪崩が。


山の斜面を覆っていた。


白い雪はまだわずかに崩れ続け、低い音を立てながら山肌を飲み込んでいく。


冷たい空気が肌を刺し、吐いた息はすぐに白く凍りついて消えた。


ベスは。


白く埋まった山道を見つめていた。


足元の雪は踏み固められているが、その下にはまだ不安定な冷気が潜んでいる。


さっきまで。


あの場所では。


虚無の使徒と神の先兵が戦っていた。


けれど。


今はもう。


すべてが雪に沈んでいる。


「……追えないな」


レオンが。


白い息を吐きながら雪崩の跡を見る。


「ああ」


ガルドが答える。


「これだけ崩れたら、今は無理だ」


その声も、冬の静けさに吸い込まれるように小さく響いた。


ベスは。


山の奥を見る。


風が吹くたび、雪の粒が細かく舞い上がり、視界を白く曇らせる。


港を壊した。


魔物を放った。


そして。


虚無の使徒たちは。


山の奥へ進んでいった。


何かを感じたから。


そう思えてならない。


「……何かを感じたんだと思う」


ベスが。


凍える空気の中で呟く。


リシアが。


雪崩の向こうを見る。


その瞳は冷たい風の中でも揺れなかった。


「私もそう思う」


ベスは。


少し考える。


西でのこと。


残された光。


虚無の使徒たちが。


それを探していたこと。


「もしかしたら……」


ベスが。


雪山を見る。


「残された光を感じたのかもしれない」


アイラが。


静かに頷く。


その頬にも冷気が触れ、わずかに赤くなっていた。


「だから、奥へ向かった」


けれど。


今は追えない。


雪崩が道を塞いでいる。


踏み出せば、足元から崩れ落ちるような不安定さがあった。


ガルドが。


仲間たちを見る。


「今日はここで休もう」


「ああ」


ベスたちは。


頷いた。


しばらくして。


リシアが。


口を開く。


「だったら」


皆が。


リシアを見る。


吐く息が白く重なり、焚き火のない空気は一層冷たく感じられた。


「銀狐に会いに行きましょう」


ベスは。


銀色の狐を思い出す。


北の大陸の守護獣。


そして。


リシアが加護を受けた存在。


「そうだな」


ガルドが。


頷く。


「使徒を追えないなら、銀狐に会うのも一つだ」


レオンも。


頷く。


「それなら、明日は銀狐を探すか」


アイラも。


「うん」


短く答えた。


その声は冷気に溶けるように静かだった。


その時。


「……さむい」


ノアの声がした。


ベスが。


振り返る。


ノアは。


灰猫を腕の中に抱いていた。


灰猫は。


丸くなり、毛を膨らませて少しでも体温を逃がさないようにしている。


「猫さんも寒いの?」


ノアが。


心配そうに聞く。


灰猫は。


目だけを開いた。


「当然じゃ」


「こんな場所で平気なわけがなかろう」


ノアが。


灰猫をぎゅっと抱きしめる。


その小さな体温が、冷えた空気の中でわずかな温もりを作っていた。


「じゃあ、温めてあげる」


「うむ」


灰猫は。


満足そうに目を閉じた。


レオンが。


小さく笑う。


「すっかりノアの腕の中が気に入ったな」


「暖かいからのう」


灰猫が。


答える。


そのやり取りだけが、凍りついた空気の中でわずかに柔らかかった。


アイラも。


小さく笑った。


ベスも。


思わず口元を緩める。


けれど。


すぐに。


雪崩の跡へ視線を戻す。


風が吹くたび、雪がきしむ音がする。


その音はどこか遠くで何かが動いているようにも聞こえた。


今は。


何もできない。


なら。


休むしかない。


明日。


銀狐のもとへ向かう。


その先で。


何が待っているのか。


まだ。


ベスには分からなかった。


やがて。


小さな焚き火が起こされる。


炎は弱く、しかし確かに揺れながら周囲の冷気を押し返していく。


その熱が頬に触れるたび、凍えていた感覚が少しずつ戻ってくる。


雪の夜は。


静かに。


そして張り詰めたまま。






















ゆっくりと更けていった。

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