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バル  作者: 隣の猫
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スライド



山の斜面が、かすかに揺れた。


視線の先、積もった雪がわずかに崩れ、筋を作っていた。


次の瞬間だった。


――ズズズズズ……。


山の奥から、地の底を這うような音が響く。


「全員、下がれ!」


ガルドの叫びと同時に、斜面の雪が一気に崩れ落ちた。


「雪崩だ!」


レオンが叫ぶ。


白い壁が、音を置き去りにして迫ってくる。


「走れ!」


ガルドの指示が飛ぶ。


一行は一斉に駆け出した。


だがその中で、ベスはすぐに気づく。


ノアの足が遅れている。


小さな身体が雪に取られ、何度もバランスを崩す。


「ノア!」


ベスは迷わず戻った。


「ごめん」


その一言と同時に、ノアを肩へ担ぎ上げる。


「しっかり掴まってろ」


「うん!」


ノアは必死にベスの肩へ腕を回す。


その腕の中には、灰猫もいた。


「猫さんも!」


ノアが抱え直すと、灰猫は不満そうに一度だけ鳴き、それでも大人しく収まった。


「……うむ」


短い声。


だが抵抗はない。


ベスはそのまま走り出す。


雪を蹴るたびに、背後の轟音が近づいてくる。


「こっちだ!」


アイラが岩陰を指す。


「団長!」


ベスの声に、ガルドが即座に判断を下す。


「全員、岩陰へ!」


レオンが先に滑り込むように入り、ボルグが最後尾で大楯を構える。


エインは弓を背負ったまま雪を切り裂くように走り、リシアが全員の位置を確認する。


「あと少し!」


その声を合図に、ベスは岩陰へ飛び込んだ。


直後。


――ゴォォォォォッ!!


雪崩が視界を覆い尽くした。


白がすべてを飲み込む。


黒い霧も、白い羽も、戦場の痕跡すら一瞬で消える。


地面が揺れ、岩陰の中まで振動が伝わる。


ベスはノアを抱えたまま岩に身を寄せた。


ノアの腕の中で、灰猫が目を細める。


やがて轟音は遠ざかり、山は再び静寂を取り戻した。


ベスはゆっくりとノアを下ろす。


「大丈夫か」


「うん」


短い返事。


だが息は荒い。


全員が岩陰の中で互いを確認する。


ガルド、レオン、アイラ、リシア


エイン、ボルグ、ノア、灰猫。


欠けはない。


「……全員無事だな」


レオンが肩を回す。


エインも短く頷き、ボルグは大楯の雪を払う。


リシアが静かに息を吐いた。


「怪我はない」


ベスもようやく息を整える。


「よかった」


ノアはまだ灰猫を抱いたまま、小さく震えていた。


「怖かったな」


ベスが言うと、ノアは小さく頷く。


「うん」


灰猫がぽつりと呟く。


「……寒い」


ノアはさらに強く抱きしめた。


「もう少しだけ我慢してね」


「うむ」


短い返事。


それ以上は何も言わない。


ベスはその様子を見て、外へ視線を向けた。


雪崩の跡は、完全に白で埋め尽くされている。


さっきまで黒と白が交差していた戦場は、跡形もない。


ベスは剣の柄に手を置いた。


今は追うべきではない。


まずは全員が生き残ったこと。


それがすべてだった。


ガルドが雪に覆われた山を見つめる。


「……しばらくは動けん」


「だな」


レオンが短く返す。


誰も雪崩の先へ踏み込もうとはしない。


山はまだ完全には死んでいない。


どこかで、雪が崩れる微かな音が続いている。


ベスはノアを見る。


灰猫を抱えたまま、仲間のそばに座っている。


その姿を確認して、ようやく肩の力を抜いた。



















山には、静かな雪が降り続いていた。

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