表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
414/434

ディスタント



雪山の奥。


静かな雪原に。


白狐は立っていた。


その前に。


黒い外套を纏った者たちが。


何人も並んでいる。


外套には。


蛇が尾を噛む紋章。


身喰らう蛇。


その一団の中から。


一人の男が前へ出る。


「守護獣よ。」


白狐の黄金の瞳が。


男へ向く。


「フェンリルの継承者は。」


「神の敵と認定された。」


雪が。


静かに降り続ける。


「継承者は、ここにも来る。」


「我らと共に排除するよう、命令が下っている。」


白狐は。


何も答えない。


ただ。


沈黙を貫く。


男も。


それ以上は急かさない。


その時。


後ろにいた男が。


すっと前へ出た。


黒い外套。


腰には。


二本の黒刀。


カゲロウだった。


「フェンリルの継承者は。」


カゲロウが。


白狐を見る。


その視線は静かだ。


だが。


底に沈んだ熱がある。


冷え切った刃のような殺意が、言葉の奥で息をしていた。


「俺が殺す。」


一言。


それだけで空気がわずかに歪む。


白狐の耳が。


わずかに動く。


カゲロウは続ける。


「お前は。」


一歩。


雪を踏む音が重く響く。


「他の仲間を抑えるだけでいいぞ?」


その声は静かだ。


だが命令でも提案でもない。


“当然そうなるべきだ”という確信だけがあった。


一瞬。


雪の音すら消える。


「それか。」


カゲロウが。


ゆっくりと口元を歪める。


その笑みは温度がない。


ただ、獲物を見つけた獣のそれだった。


「俺たちが、全て排除してもいい。」


言葉の最後が落ちた瞬間。


カゲロウの指が、無意識のように黒刀の柄へ触れる。


ほんのわずか。


抜く寸前の癖。


それだけで、周囲の団員の空気が張り詰めた。


白狐は。


黙っていた。


黄金の瞳が。


静かにカゲロウを見つめる。


その視線の中で。


カゲロウの笑みは消えない。


むしろ深くなる。


やがて。


白狐が口を開いた。


「……私の加護を受けた者まで。」


「殺させる訳にはいきません。」


その言葉に。


カゲロウの目が。


すっと細くなる。


一瞬だけ。


空気が凍る。


「なら。」


低い声。


それは同意ではない。


評価でもない。


“試す”ような響きだった。


白狐は。


ゆっくりと顔を上げる。


「分かりました。」


「協力します。」


その言葉に。


周囲の者たちが。


わずかに動く。


カゲロウは。


何も言わない。


ただ。


片手を口元へ持っていく。


指の隙間から。


小さく息が漏れる。


笑いとも呼べない。


呼吸のような音。


「あの時は。」


低く、独り言のように。


「止められたが……。」


あの橋で。


ベスをあと一歩まで追い詰めた。


だが。


ユナが現れた。


命令だと言って。


刃を止めた。


カゲロウの指が。


わずかに震える。


怒りではない。


抑え込んでいた“未完の衝動”が、静かに浮上してくる感覚。


「今回は違う。」


目が。


細くなる。


光が消えたように。


「……あの時は。」


「興を削がれたが……。」


口元を押さえた手の中で。


薄い笑みが。


ゆっくりと形を持つ。


それはもう。


笑みではなく。


















“次は必ず終わらせる”という確信の形だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ