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バル  作者: 隣の猫
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ハーバー



北の大陸が見えてきた。


船の甲板から眺める景色は、以前訪れた時と変わらない。


白く染まった山々。


厚い雪に覆われた森。


そして、海岸沿いに広がる港町。


ベスは吹き抜ける風に身を縮めた。


「……やっぱり寒いな。」


二度目の北。


分かっていたはずなのに、身体は正直だった。


レオンが肩をすくめる。


「北だからな。」


アイラも港を見つめる。


「前に来た時は、もっと人がいたよね。」


ベスは目を細めた。


確かにそうだった。


以前、この港には人の姿があった。


荷を運ぶ者。


船を整える者。


雪の中を行き交う人々。


だが――。


今は違う。


港から、人の声がほとんど聞こえない。


その代わり。


ガシャァン!!


何かが壊れる音が響いた。


ベスが顔を上げる。


「今の……。」


続いて、悲鳴。


「助けてくれ!!」


「逃げろ!!」


「魔物が港を襲ってる!?」


ガルドがすぐに振り返った。


「全員、上陸するぞ!」


「はい、団長!」


ベスたちは一斉に港へ向かった。


港へ降りた瞬間、魔物の群れが目に入った。


雪の上を逃げ惑う人々。


倒れた荷箱。


壊された建物。


そして、その間を縫うように暴れ回る魔物たち。


前に来た時には見なかった光景だった。


「急げ!」


レオンが大剣を抜く。


ボルグが大楯を構える。


エインは背負っていた大弓を下ろした。


アイラが周囲を見渡す。


「人が多い!」


ガルドが即座に指示を飛ばす。


「人を魔物から引き離す!」


「ベス、レオン、前へ!」


「エインは援護!」


「ボルグは逃げ道を作れ!」


「はい、団長!」


灰鷹が一斉に走り出した。


魔物の一体が、逃げ遅れた男へ飛びかかる。


その前へ、ボルグが割り込んだ。


ガンッ!!


巨大な爪が大楯へ叩きつけられる。


ボルグは一歩も退かない。


「下がれ。」


男が慌てて走る。


魔物が再び飛びかかろうとした。


その瞬間。


「エイン!」


レオンの声。


二体の魔物が、レオンの前へ同時に飛び込んでくる。


レオンは大剣を横へ振り抜いた。


「おらぁっ!」


二体まとめて叩き飛ばす。


だが、その先で魔物が体勢を立て直す。


二体がほぼ一直線に並んだ。


エインが足を止める。


大弓を構える。


両手で弦を引き絞る。


大きく張り詰めた弓から、重い殺気が漂った。


「そこだ。」


放たれた。


ドンッ!!


巨大な矢が雪煙を切り裂く。


先頭の魔物を貫く。


その勢いは止まらない。


そのまま後ろの魔物まで貫き、二体をまとめて雪の上へ叩き倒した。


レオンが振り返る。


「相変わらず、とんでもねぇな。」


エインは大弓を下ろす。


「並んでいたからな。」


「それで二体まとめてかよ。」


レオンが笑う。


その横から、別の魔物が飛び出した。


ベスが踏み込む。


右手の剣。


左腕の獣爪。


爪を受け止める。


そのまま身体を捻り、魔物の勢いを横へ流した。


剣を返す。


一閃。


魔物が雪へ倒れる。


「ベス!」


アイラの声。


「右!」


振り向く。


二体。


同時に迫っている。


ベスが一体を獣爪で弾く。


その隙にレオンが大剣を叩き込む。


もう一体へ、アイラの矢が突き刺さった。


魔物がよろめく。


ガルドが踏み込む。


灰色の剣が閃いた。


一体。


そしてもう一体。


雪の上へ倒れる。


「残りは?」


アイラが港の奥を見る。


「あと三体!」


ガルドが頷く。


「行くぞ!」


灰鷹はさらに港の奥へ進む。


逃げ遅れた人々の前へ魔物が飛び出した。


ベスが走る。


獣爪で攻撃を受け止める。


そのまま弾き飛ばす。


レオンが横から踏み込み、大剣を振り抜く。


魔物が雪の上を転がる。


残った一体がベスへ飛びかかる。


その瞬間。


大弓が唸った。


ドンッ!!


矢が魔物を吹き飛ばし、雪壁へ叩きつける。


ベスが振り返る。


遠くでエインが大弓を下ろしていた。


「助かった。」


エインは小さく頷くだけだった。


その直後。


最後の魔物が背後から飛び出す。


ガルドが一歩踏み込む。


灰色の剣が一閃。


魔物が倒れた。


港に静寂が戻った。


荒い息だけが響く。


ベスは剣を下ろした。


「……終わった。」


港の人々が、恐る恐る建物の陰から姿を現す。


泣いていた子どもを母親が抱きしめる。


老人が倒れた荷箱を起こそうとする。


ガルドが周囲を見渡した。


「怪我人を確認する。」


「リシア。」


「はい。」


リシアが人々の方へ向かう。


アイラもその後に続いた。


レオンは倒れた荷箱を持ち上げる。


「こいつは後で直せそうだな。」


ボルグは壊れた柵を確認する。


「港の入口も修理が必要だ。」


エインは大弓を背負い直し、港の奥へ視線を向けた。


「魔物が、ここまで入り込むとはな。」


ベスは黙って港を見つめる。


以前ここへ来た時とは、明らかに違う。


人々の顔から笑顔が消えている。


壊れた建物。


荒れた道。


そして、まだ残っている魔物の痕跡。


二度目に訪れた北の港は、以前とはまるで違う場所になっていた。


ベスは雪を踏みしめる。


「……何があったんだ。」


ガルドが港の奥を見つめる。


「それを調べる必要があるな。」


冷たい風が吹き抜ける。
















その先には、白く染まった北の山々がそびえていた。

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