表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
407/411

サーヒィス



静かだった。


戦いが終わった地下水路には。


水の流れる音だけが残っている。


ベスは。


その場に立っていた。


左腕を見る。


牙は。


もう消えている。


けれど。


身体は重かった。


息を吸うだけでも。


胸の奥が痛む。


周りを見る。


レオンも。


エインも。


アイラも。


リシアも。


ボルグも。


ガルドも。


皆、満身創痍だった。


その時。


「ベス!」


ノアが駆け寄ってくる。


ベスの前に立つと。


すぐに治療を始めた。


淡い光が。


身体を包む。


傷の痛みが。


少しずつ和らいでいく。


呼吸も。


少しだけ楽になる。


その後。


ノアは仲間たちにも治療を施していく。


完全に元通りになるわけではない。


それでも。


歩くことはできる。


やがて。


ノアが手を下ろした。


ガルドが立ち上がる。


仲間たちを見回す。


「よし」


灰色の剣を握る。


「みんな動けるな?」


「ああ」


レオンが答える。


エインも頷く。


アイラ。


リシア。


ボルグも。


それぞれ立ち上がった。


ベスも。


ゆっくり足を動かす。


まだ重い。


それでも。


歩ける。


ガルドが。


来た道を見る。


「戻るぞ」


皆が。


歩き始める。


地下水路を。


来た道へ向かって。


一歩。


また一歩。


その時だった。


「……仕方ないのう」


灰猫が。


口を挟んだ。


ベスが。


振り返る。


灰猫は。


皆が戻ろうとしているのを見ながら。


最奥の壁へ視線を向けていた。


「どうした?」


ガルドが聞く。


灰猫が。


尻尾を揺らす。


「そこの壁を見てみい」


ベスたちが。


足を止める。


最奥の壁。


ただの古い石壁に見える。


けれど。


灰猫が示した場所には。


小さな凹みがあった。


「そこじゃ」


ベスが。


近づく。


手を伸ばす。


指先が。


凹みに触れた。


カチッ。


小さな音。


次の瞬間。


ゴゴゴゴゴ……。


壁の奥から。


低い音が響いた。


石が。


ゆっくり動く。


砂が。


ぱらぱらと落ちる。


そして。


壁が開いた。


その向こうに。


階段があった。


――最初は、ただの暗がりだった。


だが一段目に足を乗せた瞬間。


空気が変わる。


冷たく湿った地下の気配の奥に。


かすかに“上”へ引かれる風が混じっていた。


一段。


また一段。


踏みしめるたびに。


足音が軽く響くようになる。


それまで水に吸われていた音が。


石の階段に反射し始めていた。


どこか遠くで。


水の流れとは違う音が混じる。


風が。


確かに強くなっていく。


ベスの髪が。


わずかに揺れた。


「……上だ」


誰かが呟く。


階段の先は。


暗いはずなのに。


ほんのわずかに明るい。


光が。


どこかから漏れている。


やがて。


その光は。


“出口”の形を持ち始めた。


階段の終わりに。


一枚の扉があった。


それは重い石扉ではない。


外の光を受けて。


わずかに縁が白く滲んでいる。


隙間から。


風が流れ込んでいた。


地下の冷たい空気ではない。


生きた空気。


草と土の匂いを含んだ風。


その風が。


扉の隙間から。


何度も何度も。


仲間たちの頬を撫でていく。


遠くで。


鳥の声のようなものが聞こえた。


レオンが。


小さく息を吐く。


「……地上だな」


誰も。


すぐには動かなかった。


ただ。


その扉の向こうから流れ込む光と風を。














静かに受け止めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ