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バル  作者: 隣の猫
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ライツー



草原が。


白くほどけていく。


風が遠ざかる。


フェンリルの輪郭が崩れ、光の粒となって消えていく。


次の瞬間。


冷たい水が足元を打った。


湿った空気。


石と鉄の匂い。


地下水路。


ベスは目を開いた。


「……。」


顔を上げる。


視界の奥で。


金属がぶつかる火花が散っていた。


ガギィィン!!


白い“刃”が空間を裂く。


それは羽だった。


一枚一枚が刃のように尖り、回転しながら飛ぶ。


天井近くから斜めに降り、床すれすれを滑り、壁を削りながら軌道を変える。


その中心に。


白い翼の影。


神の先兵。


その周囲を囲むように。


ガルドたちが散っていた。


正面。


ガルドが踏み込む。


灰色の剣が横に払われる。


キィン!!


三枚の羽が同時に弾かれ、火花を散らして壁へ突き刺さる。


その右側。


レオンが大剣を振り下ろす。


空気ごと叩き割る一撃。


ガァン!!


床に衝撃が走り、羽の群れが一瞬浮き上がる。


だが戻しが遅い。


その“隙間”へ白い羽が滑り込む。


「来るぞ!」


ボルグが前へ出る。


大楯が横から割り込む。


ガギィィン!!


羽が盾に突き刺さり、金属が悲鳴を上げる。


盾の裏でボルグの足が床を削る。


一歩、押される。


その瞬間。


左側から矢が走る。


アイラ。


風を巻いた矢が、羽の群れの中心を横切る。


ヒュンッ!!


軌道が一列ずれる。


その“ずれた列”へ。


リシアが踏み込む。


氷の剣が二本、交差する。


キィン!!


羽が凍りつき、空中で砕ける。


破片が光を反射し、視界を一瞬白く染める。


その奥。


エインの大弓が唸る。


ズドォン!!


重い矢が空間を押し潰し、白い翼の中心を撃ち抜く。


羽の流れが一瞬“空白”になる。


だが。


すぐに埋まる。


散った羽が、逆流するように集まり直す。


ガギィィン!!


再び衝突。


ボルグの盾が軋む。


レオンの足が滑る。


ガルドの剣が一瞬止まる。


その“止まり”を見て。


白い翼が動いた。


一斉に。


レオンの戻りへ。


「っ!」


レオンが剣を引く。


間に合う。


だが。


その一瞬を。


ボルグが盾で割る。


ガギィィン!!


羽が弾かれ、床へ散る。


「くそ……読んでやがる!」


レオンが歯を噛む。


その横で。


ガルドの目が細くなる。


「一度見せた動きは、次で潰してくる。」


その言葉の直後。


ベスが立ち上がる。


「……ああ。」


左腕の獣爪が、わずかに光を帯びる。


白い羽が再び迫る。


ベスが踏み込む。


ガンッ!!


一枚を弾く。


そのまま剣を振る。


キィン!!


空中で羽が裂ける。


だが。


身体が重い。


踏み込みが一拍遅れる。


その“遅れ”へ羽が滑り込む。


「ベス!」


ボルグの盾が横から割り込む。


ガギィィン!!


衝撃が二重に重なる。


ベスは一歩引く。


息を吐く。


(まだ……戻りきってない)


視界の中で。


戦場が揺れている。


前線。


ガルドとレオン。


中距離。


アイラとエイン。


支援。


リシア。


防御。


ボルグ。


全員が。


一列ではなく。


“層”になって戦っている。


だが。


その層が。


少しずつ押されている。


ガルドが一歩下がる。


その瞬間。


視線がベスに向いた。


「ベス。」


「……何だ。」


白い羽が頭上を通過する。


ガルドは剣を構えたまま言う。


「さっきの。」


一拍。


「まだ出せるか。」


ベスの左腕が脈打つ。


蒼白い紋様の奥。


獣の気配。


「……出せると思う。」


「でも。」


視線を落とす。


「一度だけだと思う。」


ガルドの目が変わる。


理解。


即断。


「なら。」


剣を構え直す。


「その一瞬を作る。」


空気が変わる。


「ボルグ!」


「ベスを隠せ!」


「任せろ!!」


ボルグが大楯を前へ叩きつける。


ガギィィン!!


白い羽が盾面に集中する。


視界が一瞬、完全に遮断される。


「リシア!」


「はい!」


氷が走る。


床、壁、空中。


薄い鏡のような氷面が次々と展開される。


白い羽がそこに映り込み、実体と反射が重なる。


軌道が一瞬だけ乱れる。


「アイラ!」


「全部使う!」


風が収束する。


矢が連続で放たれる。


羽の群れが裂け、空間に穴が空く。


「エイン!」


「道は作る!」


ズドォン!!


重い矢が空間を押し開く。


「レオン!」


「行くぞ!」


ガルドとレオンが同時に踏み込む。


前へ。


さらに前へ。


羽を斬り、弾き、押し潰しながら進む。


その後ろで。


ボルグの盾が前進する。


一歩。


また一歩。


完全に“壁”として前へ出る。


その影の中。


ベスは消える。


音が遠のく。


白い羽の軌道が見えない。


仲間の気配だけが残る。


ベスは息を殺す。


剣を握る。


左腕へ意識を落とす。


牙。


それはまだ。


出ていない。


今は。


出すための場所へ。


ただ。


移動する。


ボルグの影がさらに前へ伸びる。


白い翼の視界が完全に切れる。


その瞬間。


ベスは。


一歩だけ。


影から外れた。


誰の視界にも入らない角度へ。


音の届かない線へ。


そして。














戦場の“死角”へと滑り込んだ。

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