ビヨンド
神の先兵は動かない。
ただ。
白い翼が静かに広がった。
ひらり。
一枚。
また一枚。
羽が舞う。
地下水路に漂う。
やがて。
羽が白い光へ変わる。
空気が変質する。
冷たいはずの地下水路に、肌を刺すような圧が生まれた。
光は空中で集まり。
一本。
長く。
鋭く。
白い槍を形作った。
神の先兵の手は空のまま。
だがその周囲の空気が、低く唸るように震えている。
槍だけが。
静かに宙へ浮かんでいた。
「……。」
ベスは剣を構えた。
嫌な予感。
皮膚の上を這うような圧力。
呼吸が浅くなる。
次の瞬間。
槍が消えた。
「っ!」
視界から消える。
音が遅れて追いかけてくる。
キィィン――!!
金属が悲鳴を上げるような甲高い衝突音。
咄嗟に剣を合わせる。
その瞬間。
腕に“殴られた”ような衝撃が走った。
ガギィィン!!
火花が散る。
視界の端で白い光が弾ける。
受け止める。
だが。
止まらない。
「ぐっ……!」
剣越しに伝わる圧が異常だった。
ただの衝撃ではない。
押し潰すような重さと、内側から骨を軋ませるような振動。
両足が石畳を削る。
ギギギギ……!!
靴底が石を噛み砕き、砂利が跳ねる音が耳に刺さる。
足元の感覚が薄れていく。
滑る。
押される。
視界が揺れる。
「うぉぉぉっ!!」
全身へ力を込める。
腕の筋が悲鳴を上げ、肩が軋む。
それでも。
白い槍は止まらない。
圧が増すたびに、空気が“重く”なる。
肺が押し潰されるように息が詰まる。
一歩。
また一歩。
石畳が砕ける音が足元で響く。
ベスの身体が後ろへ押し込まれていく。
限界だった。
その瞬間。
ドォォン!!
爆ぜるような衝撃。
身体が弾き飛ばされた。
背中から壁へ叩きつけられる。
骨に直接響く鈍い衝撃音。
轟音が地下水路全体に反響した。
石壁が悲鳴を上げる。
ミシ……ッ。
乾いた音。
続けて。
ミシミシミシッ!!
亀裂が一気に走る。
壁の表面が内側から押し広げられるように歪み、粉塵が舞い上がる。
崩れる。
崩壊が始まる。
ベスは崩れ落ちる石壁を見上げた。
「……!」
視界の中で。
光を見つけた…。




