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バル  作者: 隣の猫
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397/398

ダーク



落ちる。


闇が一気に近づく。


耳の奥で、風が裂けるような音が反響する。


次の瞬間。


ドボォン!!


全身が水に叩きつけられた。


冷たさというより、衝撃だった。


皮膚の上を一気に何かが剥がれていくような感覚。


肺の中の空気が押し潰される。


「っ……!」


息を吸おうとして、代わりに水が入り込む。


喉の奥が焼けるように締まる。


視界が一瞬で歪んだ。


上下の感覚が消える。


どちらが水面かも分からないまま、身体が引きずり込まれていく。


重い。


鎧でもないのに、全身が鉛のように沈む。


指先に力を込める。


水を掻く。


だが、掴めるものは何もない。


ただ冷たい流れだけが、四肢を押し流していく。


「……っ!」


肺が限界を訴える。


胸の奥が破裂しそうになる直前、ようやく水面が揺れた。


顔が外気に出る。


「はっ……! はぁっ……!」


空気が一気に流れ込む。


喉が痛いほどに呼吸を繰り返す。


咳と一緒に水が吐き出される。


口の中に残る鉄のような味。


冷たさが、遅れて全身に染み込んでくる。


その冷えが、頭の奥に残っていた熱を少しずつ削っていく。


燃え上がっていた感情が、遠くへ引いていく。


呼吸が乱れたまま、少しずつ整っていく。


「……俺は。」


声が掠れる。


途切れた記憶が、ゆっくりと繋がる。


街。


崩れた光。


仲間の声。


そして、自分が振るった力。


ベスは水面に浮かびながら、周囲を見渡した。


暗い。


天井は低く、岩肌が近い。


水路の壁に沿って、黒い水が流れ続けている。


耳に届くのは、その流れの音だけだった。


「……!」


視線を走らせる。


白い影を探す。


右。


左。


流れの上流。


下流。


どこにもいない。


確かに、同じ場所へ落ちたはずだった。


「どこだ……」


声は水音に吸われていく。


返事はない。


ただ、水だけが一定の速度で流れ続けている。


足を探る。


底を取ろうとするが、流れが速い。


身体が少しずつ引きずられる。


「くっ……!」


岩肌へ手を伸ばす。


指先が滑る。


掴めない。


水の力が思った以上に強い。


そのまま、暗い水路の中を運ばれていく。


時間の感覚が曖昧になる。


やがて。


流れがわずかに緩んだ。


足先に、硬い感触。


石。


ようやく立てる。


膝をつきながら、ゆっくりと身体を起こす。


水が衣服から落ち、石の上で小さく跳ねる。


音がやけに大きく感じられた。


そこは広い空間だった。


古びた石柱が並び、崩れた壁が闇の中に沈んでいる。


長い時間、誰も踏み入れていない静けさ。


水の流れる音だけが、奥へと続いていた。


ベスは剣を握り直す。
















濡れたまま、ゆっくりと周囲を見渡した。

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