ドライ
轟音が消える。
舞い上がった土煙が、ゆっくりと晴れていく。
ぽっかりと開いた大穴。
その底は暗く、何も見えない。
覗き込んだ瞬間、冷たい湿気が上がってくる。
地上とは違う、淀んだ空気。
どこか遠くで、水が落ちるような音がした。
ぽたり。
ぽたり。
その音だけが、深く反響している。
「ベス!」
ガルドが穴へ駆け寄ろうとした。
その瞬間。
街を覆っていた白い光が、ふっと消える。
「……!」
止まっていた身体が動く。
だが。
全身に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
レオンが腕を押さえる。
アイラは頬から流れる血を拭い、小さく息を呑む。
ボルグは大楯へ体重を預けながら立ち上がった。
ガルドも肩を押さえ、苦く息を吐く。
誰も致命傷ではない。
それでも。
無事とは、とても言えなかった。
穴の底からは、冷えた風が吹き上がってくる。
湿った石の匂い。
どこかで水が流れている気配。
だがその音は一定ではなく、歪に跳ね返っている。
まるで、地下そのものが生きているようだった。
「ノア!」
リシアが呼ぶ。
「うん!」
ノアが駆け寄る。
淡い光がリシアを包む。
傷口が少しずつ塞がり、乱れていた呼吸が落ち着いていく。
「ありがとう。」
リシアは小さく微笑み、すぐに立ち上がる。
「急ぎましょう。」
「はい!」
今度は二人で仲間たちへ治癒術を施していく。
レオン。
アイラ。
ボルグ。
エイン。
ガルド。
完全には癒えない。
それでも、身体を動かせるところまでは戻っていく。
静まり返った街。
その中央に開いた大穴を見つめながら、エインが静かに口を開いた。
「……驚いたな。」
隣でボルグも頷く。
「あそこまで強くなっていたとは。」
しばらく沈黙が流れる。
やがてエインが低く言う。
「このままじゃ……あいつはこちら側へ戻れなくなる。」
ガルドは穴の底を見つめたまま答えた。
「ああ。」
短い返事。
「分かっている。」
そして静かに続ける。
「だが、この地下水路はかなり複雑だ。」
「どこへ繋がっているのか……俺にも分からん。」
穴の奥から、再び水音が響く。
今度は少し近い。
それが反響して、方向感覚を狂わせるように広がった。
その時だった。
灰猫が穴の縁まで歩いてくる。
暗闇を見下ろし、小さく息を吐いた。
湿った空気がその毛を揺らす。
「……仕方ないのう。」
ゆっくりと振り返る。
「ついて来い。」
ノアが駆け寄る。
「うん!」
灰猫はノアを見上げ、少しだけ目を細めた。
「ノアよ。」
「ん?」
「わしを濡らすでないぞ。」
その一言に。
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らぐ。
ノアは小さく笑った。
「気をつける!」
灰猫は満足そうに頷く。
そして。
誰よりも先に。
暗く、湿った地下水路へ飛び降りた。




