フォール
銀色の牙が届く。
空気が裂けるような風圧が走り
白い翼が一瞬遅れて揺れた。
羽が擦れ合う乾いた音が重なり
空間そのものが軋む。
三人の神の先兵。
重なった白い壁で受け止める。
だが。
止まらない。
ベスの剣が押し込む。
金属が悲鳴を上げるような高い衝突音。
白い防御に刃が食い込み、火花のような光が散る。
銀色の爪がその隙間へねじ込まれ
骨を削るような軋みが響いた。
その奥から。
フェンリルの力が噴き出す。
ドンッ!!
爆ぜるような衝撃。
空気が押し潰され、白い壁が後方へ弾かれる。
地面が低く唸り、石畳がきしむ音が連鎖する。
一歩。
二歩。
三人の身体が。
初めて後ろへ流れる。
「……。」
白い瞳。
変わらない。
だが。
わずかに、動きの間隔が乱れる。
ベスは見逃さない。
踏み込む。
足が地面を蹴るたび
石が砕ける乾いた音が響き
風が逆巻く。
右手の剣。
左腕の獣爪。
二つを重ねる。
キィン!!
白い羽が刃になる。
槍になる。
盾になる。
金属同士が擦れるような甲高い音が連続し
白い羽が衝撃で散り
空中で砕けるように舞う。
それでも。
ベスは止まらない。
避ける。
弾く。
砕く。
一つ一つの動きが
重く
速く
風を切る音が遅れて追いかけてくる。
神の先兵3人が連携する。
二人が止める。
一人が反撃する。
だが。
その全てが、風圧の中でわずかに遅れる。
今のベスには届かない。
怒りが。
恐怖が。
失うことへの記憶が。
全て力へ変わっている。
「……。」
ベスは剣を握る。
握りしめた指が軋み、金属がきしむ音が微かに鳴る。
目の前を見る。
神の先兵。
白い存在。
また。
奪おうとしている。
そう思った瞬間。
空気が変わる。
圧が一段、跳ね上がる。
身体がさらに前へ出た。
ドンッ!!
地面を蹴る。
石が砕け
破片が後方へ飛び散る。
風が爆ぜるように広がり
白い翼の動きが一瞬遅れる。
そこへ。
剣が走る。
ガキィィン!!
金属と白がぶつかり
耳を裂くような衝突音が響く
白い防御が大きく揺らぎ
羽がばらけるように散った。
そのまま。
ベスは距離を詰めた。
獣爪が迫る。
空気を裂く音と共に、白い影が押し返そうとする。
神の先兵3人が。
初めて押し切られる。
そして。
ベスは。
三つの白い影を。
地面へ叩き落とした。
砂煙が跳ねる。
その中心。
ベスは立っていた。
息が荒い。
蒼白い光が、まだ揺れている。
白い翼が動く。
起き上がる。
速い。
だが。
遅い。
ベスはもう、上にいた。
踏み込む。
一歩。
間合いが消える。
右手。
剣。
左腕。
銀色の獣爪。
その奥。
重なる気配。
獣。
一瞬。
本当に一瞬。
境界が、噛み合う。
次の瞬間。
振り下ろす。
剣が落ちる。
白い羽が殺到する。
受ける。
塞ぐ。
その上から。
爪が叩き込まれる。
ガァン!!
空気が裂ける。
白が揺れる。
止まらない。
遅れて。
牙。
ズドォォォォン!!
遅延した衝撃が、爆ぜる。
地面が跳ねる。
石畳が沈む。
三つの白い影が、さらに押し潰される。
その顔が。
歪む。
初めて。
ほんの僅かに。
均衡が崩れる。
ベスは見ている。
止めない。
止まれない。
怒りが、腕を動かす。
「……」
呼吸が切れる。
次の瞬間。
衝撃が、下へ抜けた。
ドン。
一拍遅れて。
ドン。
さらに。
ドゴゴゴゴ……。
地の奥で、何かが軋む。
ベスが足元を見る。
遅い。
もう、遅い。
亀裂が走る。
一本。
二本。
一気に広がる。
石床が、沈む。
支えが、死ぬ。
その下。
隠れていた空間が、剥がれる。
暗闇。
湿った空気。
水の音。
地下水路。
崩れる。
一瞬で。
ベスと三つの白い影は、そのまま落ちていった。




