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バル  作者: 隣の猫
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394/398

エクシード




地面が砕ける。


ベスの姿が消えた。


三つの白い影へ。


一直線。


神の先兵たちは動く。


三方向。


同時。


白い羽が舞う。


一枚。


二枚。


形を変える。


刃。


槍。


盾。


ベスの前へ迫る。


だが、その軌道はすでに“読まれている”。


ベスは踏み込みの勢いを殺さないまま、半歩だけ角度をずらす。


最初の刃が空を裂く。


紙一重ではない。


“当たらない位置”へ最初から入っている。


ガキィィン!!


銀色の爪が白い刃を弾く。


その反動すら利用し、ベスはさらに加速する。


右手の剣。


一閃。


キィン!!


別の神の先兵が羽を集める。


盾。


だがベスは剣を振り切らない。


途中で刃筋をわずかに変え、盾の“継ぎ目”へ滑り込ませる。


受け止めではなく、構造そのものを崩す一撃。


白い盾が一瞬遅れて軋む。


その“遅れ”を見逃さない。


ベスは左腕を叩き込む。


ガァン!!


崩れかけた盾の中心を正確に撃ち抜く。


白い羽が散る。


その瞬間にはもう、次の動きへ移っている。


三人目の刃。


死角からの一閃。


だがベスは振り返らない。


視線だけで軌道を捉え、身体を“最小限だけ”沈める。


刃は頬を掠めるが、致命には届かない。


避けたのではない。


“通過させた”。


そのまま前へ出る。


距離を詰めるための一歩が、すでに反撃になっている。


「……。」


神の先兵たちは表情を変えない。


ただ。


三人の動きが重なる。


一人が攻撃。


一人が防ぐ。


一人が死角を狙う。


無駄がない。


だがその連携の“隙間”に、ベスは迷いなく踏み込む。


攻撃の切れ目ではない。


“切れ目を作る前”に割り込んでいる。


白い羽を弾き。


刃を避けるのではなく“流し”。


相手の次の動作を潰しながら距離を詰める。


銀色の爪が走る。


キィン!!


白い翼が揺れる。


今度は防御ではない。


一瞬だけ生まれた“再構築の間”に、ベスの一撃が差し込まれた。


初めて。


神の先兵の微笑みが。


消えた。


そこに残ったのは。


感情のない。


静かな表情。


ベスは剣を構える。


まだ終わらない。



白い翼が広がる。


三つの白い影。


同時に動く。


空気が裂ける音がした。


ヒュッ、と風が喉元を撫でる。


だが。


ベスは止まらなかった。


正面から迫る刃。


左腕で弾く。


ガンッ!!


骨に響く鈍い衝撃。


腕の内側まで痺れが走る。


横から迫る槍。


身体を沈める。


風圧が髪を削ぎ、頬をかすめる。


ヒュン、と耳の奥で空気が鳴った。


背後から迫る羽。


振り返らずに剣を振るう。


キィン!!


金属を叩いたような高い音。


白い羽が砕け、細かな光の粒となって散る。


一歩。


石畳が靴裏で軋む。


また一歩。


砕けた石の破片が踏み潰され、ジャリ、と乾いた音を立てる。


ベスが前へ出る。


神の先兵たちは。


初めて押し返されていた。


力ではない。


踏み込みの重さ。


一撃ごとの“間”の消し方。


呼吸の隙間すら潰すような圧。


「……。」


ベスは剣を握る。


柄が手のひらに食い込み、皮膚が軋む。


怒りがある。


だが。


それだけではない。


失いたくない。


その一点だけが。


胸の奥で焼けるように熱を持ち、全身へ流れていた。


その時。


一瞬。


視線が後ろへ向く。


動けない仲間たち。


ガルド。


レオン。


アイラ。


リシア。


エイン。


ボルグ。


息はある。


だが、呼吸は浅く、胸が上下するたびに鎧が小さく軋む。


血の匂いが、風に混じって鼻を刺した。


鉄の匂い。


焼けた石の匂い。


それが混ざり合って、喉の奥に重く残る。


まだこちらを見ている。


その視線が、痛いほどに刺さる。


ベスの胸の奥が。


ぎり、と音を立てたように締め付けられる。




また。


同じなのか。



あの日と。


何もできなかった時と。



「……。」



指に力が入る。


剣の柄がきしみ、革が軋む音がした。


神の先兵を見る。


変わらない顔。


感情のない瞳。


まるで。


目の前で起きているすべてが、ただの


“処理”


でしかないように。


その瞬間。




何かが切れた。




蒼白い光が。


ベスの身体から漏れ出す。


最初は呼吸の隙間から。


次に肩口から。


そして左腕、背中へと滲むように広がっていく。


空気が震えた。


圧が変わる。


足元の石畳が、かすかに鳴った。


ミシ……と、耐えるような音。


一瞬。


そこに。


巨大な獣の影が重なった。


銀色の爪。


地を裂くような鋭い輪郭。


牙。


噛み砕くための形。


フェンリル。


神の先兵たちの動きが止まる。


ほんの一瞬。


空気が“重く”なった。


ベスは構える。


右手の剣。


振り抜く。


風が裂ける音が遅れて追いかける。


その瞬間。


白い羽が集まる。


盾になる。


ガギィィン!!


剣がぶつかった瞬間、衝撃が腕から肩へ、背骨を通って全身に突き抜ける。


骨の奥で鈍い音が鳴った。


だが。


次の瞬間。


遅れて。
















銀色の牙が迫った。

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