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バル  作者: 隣の猫
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393/397

ブレーク



また。


目の前で。


大切なものが奪われようとしている。


ベスの手が震える。


剣を握る。


力が入る。


神の先兵を見る。


変わらない表情。


穏やかな微笑み。


まるで。


何も起きていないかのように。


「……。」


胸の奥で。


何かが軋む。


村が燃えた夜。


倒れた父。


動かなくなった母。


伸ばした手。


届かなかった。


あの時と同じ。


目の前にあるのに。


守れない。


「……また。」


声が漏れる。


白い羽が舞う。


「またなのか。」


一歩。


踏み出す。


「また俺から……。」


言葉が途切れる。


その瞬間。


視界の端。


ノアと灰猫がいた。


焼けた街の中。


静かにこちらを見ている。


いつものような姿。


いつものような目。


けれど。


何も言わない。


ただ、見ている。


ベスは一瞬だけ目を伏せる。


息を吸う。


吐く。


フェンリルが鳴く。


ドクン。


左腕が熱を持つ。


銀色の獣爪が浮かび上がる。


力が、溢れる。


抑えていたものが、形になる。


「……もう。」


ベスが顔を上げる。


白い先兵を見る。


その瞳に、迷いはない。


ただ一つ。


決めた色だけがある。


「これ以上。」


一歩。


地面が軋む。


「俺から奪うなら……。」


空気が重くなる。


白い羽が、わずかに揺れる。


フェンリルの力が、周囲を歪ませる。


「神も……。」


剣を構える。


音が消える。


「お前らも……。」


白い先兵の微笑みは変わらない。


それが、逆に異質だった。


「俺が殺す。」


その瞬間。


地面が砕けた。


衝撃。


ベスの姿が消える。


初めて。


自分から。


















神の先兵へ向かって踏み込んだ。

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