リミテーション
白い羽が舞う。
静かに。
音もなく。
それは美しく見えた。
だからこそ。
不気味だった。
ベスは距離を取る。
白い刃が通り過ぎる。
背後の建物。
壁が切れる。
崩れた石が落ちる。
「……。」
ベスは振り返る。
焼けた街。
まだ煙の残る場所。
人が暮らしている場所。
「……やめろ。」
小さな声。
だが、その声には怒りはまだない。
ただ、理解できないものへの拒絶だった。
白い先兵は止まらない。
一歩。
また一歩。
近づいてくる。
「ここには……。」
ベスは剣を握る。
「まだ人がいる。」
返事はない。
ただ。
白い羽が舞う。
刃となる。
ベスは避ける。
その動きで。
刃は背後の建物を切り裂いた。
ガラッ。
瓦礫が落ちる。
ベスの表情がわずかに揺れる。
怒りではない。
焦りでもない。
ただ、認識が追いつかない。
「……。」
(こいつは……何を見ている?)
視線の先にあるのは自分ではないのかもしれない。
そんな違和感が生まれる。
「お前たちは。」
声が低くなる。
「何を守っているんだ。」
白い者は答えない。
「神の命令。」
ただ。
それだけ。
ベスの目が細まる。
「神……。」
その言葉に、かつての熱はまだ乗らない。
代わりに浮かぶのは別の感覚だった。
(神のために動いているのに、神の意思を語っていない)
(命令だけで、意味がない)
目の前の存在は「信仰」でも「意志」でもない。
ただの実行。
そこに“理由”が存在していない。
「なぜだ。」
問いかける声は、さっきよりも静かだった。
「なぜ俺を排除する。」
白い瞳は揺れない。
「対象。」
「排除します。」
それだけ。
ベスの手に力が入る。
会話ではない。
意思の交換でもない。
ただの処理。
そこに“理解”が存在しない。
(こいつは……俺を見ていない)
その感覚が、じわりと広がる。
自分という存在が、認識されていない。
敵かどうか以前に、「個」として扱われていない。
「……。」
ベスは息を吐く。
白い羽が舞う。
その向こう。
壁の向こうに。
仲間がいる。
まだ戦っている。
その姿を見る。
胸の奥に、小さな違和感が刺さる。
(あいつらも……同じように見られているのか?)
守るべきもの。
奪われるかもしれないもの。
それすら、ここでは意味を持っていないように見えた。
なぜ。
なぜ俺を狙う。
なぜ答えない。
なぜ街を見ない。
なぜ人を見ない。
なぜ“意味”がないまま動ける。
疑問は怒りに変わらない。
ただ、理解の枠から外れていく。
ベスの中で、世界の輪郭が少しずつ歪み始めていた。




