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バル  作者: 隣の猫
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389/400

リミット



白い壁の向こう。


仲間の姿が見える。


声は届かない。


ただ。


そこにいる。


ベスは一瞬だけ視線を向けた。


ガルド。


レオン。


アイラ。


リシア。


エイン。


ボルグ。


全員が動こうとしている。


だが。


白い翼が。


それを許さない。


「……。」


ベスは前を見る。


二つの白い影。


変わらない。


穏やかな微笑み。


何も感じていないような瞳。


その手前で。


白い羽が舞っている。


「……なぜだ。」


小さく呟く。


返事はない。


白い刃が迫る。


ベスは身体を捻る。


キィン。


頬を掠める。


背後の壁。


白い線が走る。


「……。」


ベスは剣を握り直す。


速い。


正確。


だが。


やはり違う。


殺気がない。


怒りもない。


憎しみもない。


ただ。


決められた動きを繰り返している。


(戦っている、というより……)


ベスの胸の奥で、違和感が形を持ち始める。


(“処理”されているみたいだ)


「俺を狙う理由は何だ。」


一歩。


距離を取る。


「俺は何をした。」


白い先兵は止まらない。


羽が舞う。


剣になる。


ベスは左腕を上げる。


銀色の獣爪。


ガキィン!!


受け止める。


衝撃。


だが。


押し込まれない。


力比べではない。


ただ。


自分のいる場所を奪われる。


そんな感覚。


(違う……これは戦いじゃない)


ベスの中で、焦りとは別のものが生まれる。


理解できないものに対する、静かな不安。


「……。」


ベスは眉を寄せる。


(何なんだ……こいつらは)


白い影が迫る。


避ける。


受ける。


だが。


攻撃することができない。


剣を振れば、確実に倒せる。


そう分かっている。


なのに。


振れない。


(ここで全力を出せば……)


脳裏に焼けた街がよぎる。


崩れた石壁。


倒れた家。


まだ息のある人間の気配。


(また、壊す)


その想像が、手を止める。


守りたいものが増えた今の自分は、もう昔のように振るえない。


だが。


振らなければ。


目の前の“何か”は止まらない。


「……くそ」


小さく漏れる声。


自分でも気づかないほどの苛立ち。


「答えろ。」


もう一度。


声を出す。


「なぜ俺なんだ。」


白い者は。


ただ。


微笑んでいた。


その表情は。


最初から。


一度も変わらない。


(聞いていない)


(見ていない)


(俺を“俺”として見ていない)


その事実が、じわりとベスの中に沈む。


「……会話する気がないのか。」


風が吹く。


白い羽が舞う。


静かな戦場。


その中で。


ベスの中に。


小さな疑問が。


また一つ。













積もった。

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