ナイズド
「……虚無。」
小さな声だった。
だが。
距離は近かった。
ガルドの耳には。
確かに届いた。
白い瞳。
変わらない微笑み。
だが。
その奥で。
何かが変わっている。
「俺は――」
ガルドが口を開く。
「俺は違――」
その瞬間。
ひらり。
白い羽が舞った。
音はない。
風もない。
落下でもない。
ただ“位置が更新された”ように、羽がそこに現れる。
一枚。
また一枚。
規則性を持って。
誤差なく。
ガルドへ向かう。
「っ!」
反射で剣を上げる。
キィン!!
羽が形を変える。
白い刃。
衝突ではない。
接触した瞬間に“刃として成立する”構造。
ガルドの剣へ滑り込む。
ガギィィン!!
衝撃。
だが重さがない。
押されているのではない。
剣の軌道という概念だけが、ずらされていく。
「……!」
次。
槍。
横から。
上から。
同時。
だが同時というより、同一の意志が複数の角度に分割されている。
ガルドは身体を捻る。
紙一重。
白い槍が地面を貫く。
石畳が一直線に割れる。
破片は飛ばない。
砕けない。
ただ“線として分離”する。
音が遅れて落ちる。
ガルドは距離を取る。
だが。
白い翼は止まらない。
動きに揺らぎがない。
ためらいがない。
選択がない。
入力された命令をそのまま実行しているだけの挙動。
「ガルド!」
ボルグが前へ出た。
大楯。
白い槍を受け止める。
ガギィィン!!
衝撃。
だがそれも“衝撃”というより、盾の位置情報が一瞬だけ書き換えられるような感覚。
「ぐっ……!」
ボルグの足が沈む。
リシアが氷を展開する。
白い刃の軌道へ。
氷は“止める”のではない。
触れた瞬間、白い刃の通過予定座標がずれ、結果として逸れる。
バキィン!!
氷が砕ける。
砕けたというより、役割を終えて消去されたように崩れる。
「今です!」
ガルドが下がる。
白い羽を見る。
そこにあるのは敵意ではない。
意思でもない。
ただ。
処理。
判断。
実行。
それだけで構成された存在。
さっきまで。
自分たちは。
ただの妨害だった。
なのに。
今は。
違う。
白い翼は。
自分を“対象”として認識している。
生き物としてではない。
例外としてでもない。
ただ。
排除すべき項目として。




