スリー
三つの白い影が動いた。
ベスは剣を構える。
だが、振るわない。
視線だけが走る。
焼けた街。
崩れた建物。
まだ煙の残る戦場。
ここで全力を出せば、また何かを壊す。
それだけは避けたかった。
白い刃が迫る。
ベスは身体を捻る。
――速い。
だが「重さ」がない。
刃は空間を裂くように通り過ぎる。
次の瞬間、別の角度から二本目。
ベスは後退しながら左腕を上げる。
銀色の爪が展開。
ガキン、と受ける。
しかし衝撃はほとんどない。
押し込まれるのではなく、**“位置だけを奪われる”**ような感覚。
「……っ」
ベスは眉をひそめる。
(力じゃない……?)
三本目の刃が、遅れて“そこにあるべき場所”へ滑り込む。
ベスは紙一重で避ける。
石畳が割れる。
だが爆発はない。
ただ、線のように切れている。
「待て!」
距離を取りながら叫ぶ。
「俺は何をした!」
「なぜ俺が反逆者なんだ!」
白い先兵は止まらない。
一歩。
また一歩。
歩いているようで、実際には“距離の概念を詰めている”ような動き。
音が遅れてついてくる。
「回答。」
「不要。」
感情のない声。
ベスは息を吐く。
(会話じゃない……)
その時。
「ベス!」
後方から声。
ガルド達が動く。
理由は分からない。
だが、目の前で仲間が狙われている。
それだけで十分だった。
ガルドが剣を抜く。
レオンが大剣を構える。
アイラが弓を引く。
リシアが前へ出る。
エインが大弓を構える。
ボルグが大楯を持ち上げる。
その瞬間。
三人のうち一人が、静かに前へ出た。
白い翼がわずかに揺れる。
「……」
道を塞ぐ。
その立ち方は“構え”ではない。
ただそこに立つことで、進行方向そのものを消している。
「妨害を確認。」
静かな声。
ガルドは剣を握り直す。
「ベスに何をするつもりだ」
問いかける。
だが返答はない。
代わりに、白い剣が持ち上がる。
キィン――。
その音に、ガルドの目が細まる。
(……軽い)
虚無の使徒の音とは違う。
あれは“破壊の重さ”だった。
だがこれは違う。
音だけが綺麗で、実体がない。
なのに――触れれば死ぬ。
白い羽が舞う。
神の先兵は、ようやく動いた。
だがその動きは「攻撃」ではない。
最短距離で、ガルドの“次の行動”を潰すための一手だった。
戦いはまだ始まっていない。
それでもすでに、逃げ道だけが消されていく。




