ライト
白い刃が迫る。
ベスは身体を捻った。
一瞬遅れて。
刃が頬を掠める。
背後の壁。
そこへ白い剣が突き刺さった。
音はない。
ただ。
そこに“置かれた”ように。
静かに。
白が在った。
ベスは距離を取る。
左腕へ力を込める。
銀色の獣爪。
フェンリルが現れる。
その瞬間。
空気がわずかに軋んだ。
目の前の存在を見る。
白い翼。
女性の姿。
穏やかな微笑み。
だがそれは。
感情ではない。
表情として固定されたもののようだった。
生きているのに。
生きていない。
「……何だ。」
ベスの声が漏れる。
「何が起きた。」
白い者は答えない。
ただ。
微笑みの角度を一切変えずに立っている。
その沈黙は。
拒絶ではなく。
“応答の概念がない”ようだった。
「俺を狙ったのか。」
問いかける。
その時。
ひらり。
白い羽が舞った。
一枚。
また一枚。
風はない。
重力だけが。
それを落としている。
ベスが空を見る。
いつからいたのか。
分からない。
二つの白い影が。
音もなく降りてくる。
三人。
白い翼。
白い衣。
同じ形。
同じ動き。
同じ微笑み。
個体差がない。
まるで。
同じ意志が三つに分かれただけのようだった。
フェンリルがわずかに唸る。
銀色の爪が軋む。
“生き物”に対する反応ではない。
“異物”への警戒。
白はそれを見ても揺れない。
ただ。
そこに在る。
「確認。」
中央の一人が口を開く。
声は澄んでいる。
だが温度がない。
「対象。」
「フェンリルの継承者。」
ベスの目が細まる。
「……俺を知っているのか。」
返答は即座。
「認識済み。」
「神の反逆者。」
その言葉に。
フェンリルが一瞬だけ強く鳴いた。
ベスの指がわずかに動く。
「反逆者……?」
「俺が?」
白い者たちは答えない。
“理解”ではなく“照合”が終わっただけの沈黙。
三本の剣が同時に上がる。
動きに差はない。
遅れもない。
迷いもない。
キィン――。
澄んだ音。
まるで。
世界そのものが弦を鳴らしたように。
白い羽が舞う。
その一枚一枚が。
祈りではなく。
記録のように落ちていく。
「神の命令。」
「対象を排除します。」
その瞬間。
三つの白い影が動いた。




