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バル  作者: 隣の猫
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ヤウル



黒い影が。


ベスの身体を包んでいく。


動けない。


剣も振れない。


魔を払う光も。


もう届かない。


「ベス!」


遠くから声が聞こえる。


ガルド。


レオン。


アイラ。


リシア。


仲間の声。


しかし。


その声は。


少しずつ遠ざかっていく。


「無駄だ。」


虚無の使徒が静かに告げる。


「お前の仲間は。」


「本来の世界へ還った。」


ベスの目が揺れる。


「……。」


振り返る。


そこには。


誰もいない。


焼けた街。


黒い霧。


一人だけ残された自分。


「違う……。」


小さく呟く。


だが。


返ってくる声はない。


虚無の使徒が近づく。


「お前は特別だ。」


「フェンリルの継承者。」


「我らと共に来い。」


「盟主様の元へ。」


「共に本来の世界を取り戻そう。」


ベスは俯く。


拳を握る。


震える。


守れなかった。


また。


失った。


両親を失った時のように。


仲間まで。


「……。」


涙が落ちる。


そして。


ゆっくり顔を上げる。


「はい。」


虚無の使徒が止まる。


「盟主様の元へ行きます。」


「私も……。」


「皆さんと共に世界を救います。」


黒い霧が広がる。


虚無の使徒は満足そうに頷く。


「そうだ。」


「それでいい。」


世界は変わる。


偽りではない。


本来あるべき姿へ。


黒い霧が。


街を。


大陸を。


世界を覆っていく。


そして。


新たな戦いが始まる。

















本来の世界を取り戻すための戦いが――




















……そうなるはずだった。

















「……何が起きている?」


虚無の使徒の声。


その横にいた仲間が。


突然。


吹き飛んだ。


「……。」


何が起きた。


見えている。


確かに見えている。


だが。


理解できない。


風。


ただ風が。


頬を撫でた。


次の瞬間。


また一人。


仲間が消える。


いや。


吹き飛ばされる。


「なぜだ……。」


攻撃は見える。


動きも分かる。


それなのに。


止められない。


一人。


また一人。


黒い外套が宙を舞う。


その後ろを。


風だけが通り過ぎる。


「……。」


虚無の使徒は震える。


そして。


遠くを見る。


小さな影。


そこにいた。


「……あの猫か。」


ノアが両手を上げる。


「猫さん!」


「いけー!」


ベス達は。


ただ。


呆然と見ていた。


小さな灰色の猫が。


十人の虚無の使徒を。




















一匹で圧倒している。

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