サダルスウド
北部砦での任務を終えて数日。
中央島には再び穏やかな時間が流れていた。
だが、その静けさの裏では、新たな遠征の準備が着々と進められている。
王国から灰鷹へ、新たな任務が下された。
その目的地は――
東の大陸《蒼嵐》。
ガルドは広げた地図を静かに閉じる。
「予定通りだ。」
短い一言。
その場にいた全員が頷いた。
ベス。
レオン。
アイラ。
リシア。
そしてガルド。
今回の遠征に赴くのは、この五人だった。
一方――
「俺たちは残る。」
ボルグが腕を組んで笑う。
隣ではエインも静かに頷いた。
「新人も増えた。」
「砦を空にはできん。」
中央島へ集まり始めた若い戦士たち。
彼らを育てる役目もまた、灰鷹の大切な任務だった。
「頼んだぞ。」
ガルドの言葉に、
ボルグは豪快に笑う。
「任せろ。」
エインも短く答えた。
「戻るまで守る。」
ベスは二人へ深く頭を下げる。
「お願いします。」
「強くなって帰ってこい。」
ボルグはベスの肩を軽く叩いた。
「次は負けねぇからな。」
思わず笑いが広がる。
短いやり取りだった。
だが、それだけで十分だった。
港には大型帆船が停泊していた。
積み込まれる物資。
慌ただしく動く船員たち。
潮風が帆を揺らしている。
リシアは薬袋を確認する。
「包帯も薬草も大丈夫。」
アイラは新しい矢筒を背負い直した。
「風が強い土地らしい。」
「矢の癖も変わりそう。」
レオンは大剣を肩へ担ぎながら笑う。
「面白そうじゃねぇか。」
ベスも静かに海を見つめる。
まだ見ぬ大陸。
まだ知らない戦い。
胸の奥では、不安より期待の方が少しだけ大きくなっていた。
「出航!」
船員の声が響く。
帆が大きく広がる。
船はゆっくりと港を離れ始めた。
岸壁では、
ボルグとエインが最後まで手を振っている。
ベスも大きく振り返した。
中央島は少しずつ遠ざかっていく。
ここで学んだこと。
ここで出会った仲間。
その全てを胸に刻みながら、
灰鷹は東の大陸《蒼嵐》へ向かう。
その頃。
王城地下。
封印の石碑へ、新たな亀裂が静かに広がっていた。
老人は目を閉じる。
「……旅立ったか。」
王は低く尋ねる。
「間に合いますか。」
老人はしばらく沈黙したあと、小さく頷いた。
「間に合わせるしかありません。」
「世界を知り。」
「人を知り。」
「その先でしか辿り着けない答えがあります。」
石碑は静かに震える。
誰にも聞こえないほど小さな音だった。
しかし、その振動は確かに世界の奥深くへ伝わっていた。
遥か東。
まだ誰も知らない大陸では、
竹林を渡る風だけが、
静かに旅人たちを待っていた。




