フォージ
焼けた街を歩く。
灰鷹たちは自然と足を止めた。
誰に言われるでもなく。
倒れた木材をどける者。
瓦礫を運ぶ者。
怪我人の手当てをする者。
いつものように動き始める。
「その木材、こっちだ!」
レオンが声を張る。
「無理をしないでください。」
リシアは怪我をした老人の腕へ手を添える。
淡い光が傷を包み、老人は驚いたように目を見開いた。
「嬢ちゃん……治癒術師か。」
リシアは小さく微笑む。
「はい。」
アイラは崩れかけた壁を支えながら、子どもたちを安全な場所へ誘導していた。
ベスも黙って瓦礫を運ぶ。
ガルドは街全体を見渡している。
灰鷹にとって。
困っている人を助けることは、特別なことではなかった。
しばらくして。
一人の老人がガルドへ歩み寄る。
「……灰鷹か。」
ガルドは静かに頷く。
「ああ。」
老人は安堵したように息を吐いた。
「帰ってきてくれたか……。」
その一言だけで。
街の人々の表情が少し和らいだ。
「酷い有様じゃ。」
老人は焼け跡を見渡す。
「突然じゃった。」
「黒い霧が街へ流れ込み……黒衣の者たちが現れた。」
ベスたちは黙って聞く。
「あちこちで火の手が上がり、人々は逃げ惑った。」
「もう終わりじゃと思った。」
老人はゆっくり空を見上げた。
「その時じゃ。」
「空が、割れたように見えた。」
一瞬、言葉を探すように間が空く。
「白い羽が落ちてきた。」
「翼のようにも見えたが……羽ばたいておったわけではない。」
「ただ、そこに“在った”。」
その場が静まる。
「白い者たちは、黒衣の者だけを斬っていった。」
「だが……それが戦いだったのかどうかも分からん。」
「刃が触れた瞬間に、黒い連中は崩れ落ちた。」
「音も、叫びも、ほとんど残らん。」
老人は眉をひそめる。
「まるで……最初から“そこにいなかった”みたいに消えた。」
「ワシらには、一切刃を向けんかった。」
「逃げ遅れた子どもを抱え上げ。」
「崩れた家の下から人を引きずり出し。」
「助けたかと思えば、次の瞬間にはもう姿が見えん。」
「気付けば、空の向こうじゃ。」
老人は苦笑する。
「礼を言う暇もなかった。」
「そもそも……礼を受け取る気があったのかどうかも分からん。」
レオンは思わずベスを見る。
アイラも言葉を失っていた。
海で出会った。
あの白い者。
ベスへ敵意を向けた存在。
その同じ者たちが。
この街では、人々を救っていた。
だが、それは“救い”と呼んでいいものだったのか。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
焼け跡を吹き抜ける風だけが。
静かに街を通り過ぎていった。




