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バル  作者: 隣の猫
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373/398

スティル



港へ降り立つ。


目の前に広がる街。


そこには、確かに見覚えがあった。


白い石造りの建物は、今は崩れた瓦礫となり。


高くそびえていた鐘楼は、途中から折れたまま沈黙している。


運河へ架かっていた美しい橋は、半ば崩落し水面に沈んでいた。


赤や黄金に染まっていた山々の景色は、灰色の煙に霞んでいる。




以前。


この街を訪れた時。


風に舞う紅葉が、石畳を彩っていた。


今。


その石畳には、瓦礫と焼け跡が積もっている。




市場には人々の声が響いていた。


今。


そこにあるのは、崩れた屋台と静まり返った空間だけ。




焼きたてのパンの香りが漂っていた。


今。


焦げた木材と灰の匂いが風に混じる。




色鮮やかな果物が並んでいた。


今。


そこに色はなく、黒く焼けた残骸だけが残る。




商人たちの呼び声が飛び交っていた。


今。


聞こえるのは、瓦礫を運ぶ足音だけ。




広場では楽団が音を奏でていた。


今。


音は消え、風が空洞を通り抜けるだけ。




子どもたちは笑いながら走り回っていた。


今。


その足音はどこにもない。




旅人は足を止めて景色を眺めていた。


今。


誰も立ち止まらない。




住民は穏やかな時間を過ごしていた。


今。


その時間は、壊れたまま地面に落ちている。




風が吹く。


舞うのは紅葉ではない。


灰だった。




それでも。


街は残っている。


壊れた建物の間で、人々は動いていた。


瓦礫を運ぶ者。


壊れた家を直す者。


失われた日常を、拾い集めるように生きる者。




完全に消えたわけではない。


ただ。


かつてそこにあったものは、確かに失われていた。




灰鷹たちは、静かに街を歩く。


過去に見た景色と。


今目の前にある景色。


その差を確かめるように。

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