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バル  作者: 隣の猫
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371/397

ドン




中央島は静かに浮かんでいた。


雲の上。


海を見下ろすように。


その姿は美しくもあり。


同時に、不気味だった。


グリムファングはゆっくりと進む。


誰も口を開かなかった。


その時。


アイラが空を見上げる。


「……来る。」


風の流れが変わった。


中央島から。


何かが飛び立つ。


白い。


太陽の光を反射しているような姿。


だが。


アイラは眉をひそめる。


「……あれ。」


「風が……避けてる。」


白い存在は海面すれすれを飛んでいた。


羽ばたいているわけではない。


ただ。


空間そのものを滑るように。


近付いてくる。


ガルドが剣へ手を掛ける。


「全員、警戒。」


船員たちが動く。


ベスも左腕へ意識を集中させる。


フェンリルが反応する。


ドクン。


拒絶。


本能が告げる。


近付くな、と。


白い存在は。


グリムファングの前で止まった。


海面の上。


静かに浮かんでいる。


その姿を見て。


エインとボルグの表情が変わった。


「……あれだ。」


エインが呟く。


「中央島にいたもの。」


ボルグも拳を握る。


「やっぱり動き出したか。」


白い存在が口を開く。


声は低くも高くもない。


ただ。


感情がなかった。


「確認。」


「対象。」


白い視線がベスへ向く。


「フェンリルの継承者。」


空気が凍る。


ベスは一歩前へ出る。


「俺を知ってるのか。」


白い存在は答える。


「認識済み。」


「あなたは――」


その瞬間。


海が揺れた。


ゴゴゴゴゴ……。


全員が海を見る。


船の下。


何か巨大なものが動いている。


グリムファングが大きく揺れる。


「何だ……!」


レオンが叫ぶ。


海面が盛り上がる。


白い存在も初めて動きを止めた。


次の瞬間。


海が割れた。


巨大な顎。


海王種。


かつてベスたちが遠くから見た、海の巨大な生命。


その巨体が。


ただ一瞬。


白い存在へ向かって跳ね上がる。


白い光が揺れる。


「警告――」


言葉の途中。


巨大な牙が迫る。


そして。


白い存在は。


海王種の口の中へ消えた。


――一瞬、世界が止まった。


音が消えた。


風も、波も、叫びも。


ただ、そこにいた全員が理解できずに固まる。


「……は?」


誰かの声が、ようやく漏れた。


エインの目が見開かれる。


ボルグの拳が宙で止まる。


ガルドでさえ、剣を握ったまま動かない。


ベスは息を忘れていた。


今、何が起きた?


神の使いが。


言葉を終える前に。


喰われた?


理解が追いつかない。


次の瞬間。


海王種の巨体が海へ落ちる。


ドォォォォン!!


衝撃波。


海面が爆発する。


波がグリムファングを襲う。


「掴まれ!!」


ガルドの声が響く。


船が大きく傾く。


風が荒れる。


海が怒り狂ったようにうねる。


ベスは甲板へ爪を突き立てる。


「なんなんだ……。」


その声は、誰に向けたものでもなかった。


答えは返ってこない。


ただ、誰もが同じ表情をしていた。


理解できないものを見た顔。


恐怖でも、安堵でもない。


ただの“空白”。


神の力。


そして。


それすらもただの餌として見る存在。


この星には。


まだ自分たちの知らない強大なものがいる。


荒れ狂う海の向こう。


雲が晴れる。


その先に。


巨大な大地が見えた。


西の大陸。


グリムファングは。




















新たな場所へ流されていく。

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