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バル  作者: 隣の猫
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370/417

ポセイ




海は静かだった。


グリムファングは穏やかな波を進んでいる。


甲板では、仲間たちがそれぞれの時間を過ごしていた。


その時。


「……。」


物見台にいたアイラが、遠くを見つめる。


風が変わった。


遠くの空。


雲の向こう。


何かがある。


アイラは目を細めた。


「……見える。」


声に反応して、ガルドが顔を上げる。


「何がだ?」


アイラはゆっくり指を伸ばした。


「中央島。」


その言葉で。


甲板にいた全員の動きが止まる。


ベスも前を見る。


遥か遠く。


空に浮かぶ巨大な影。


最初は雲だと思った。


だが違う。


大地だった。


島だった。


本来なら海にあるはずのものが。


空に浮かんでいる。


「……。」


誰も言葉を出せない。


中央島。


世界の中心。


四大陸が争い続けた場所。


そこにあるはずの神殿が。


今は空に浮かんでいた。


エインが静かに息を吐く。


「……。」


ボルグも笑わない。


「あれが……。」


二人は中央島に残っていた。


だからこそ分かる。


何かが変わった。


以前とは違う。


ベスは空に浮かぶ島を見上げる。


胸の奥がざわつく。


地下神殿で見た光景。


盟主の言葉。


ユナの言葉。


それらが頭をよぎる。


「神が……。」


小さく呟く。


その時。


隣から小さな声が聞こえた。


「……怖い。」


ノアだった。


いつもなら明るく笑っているノアが。


中央島を見上げたまま、ベスの服を掴んでいた。


ベスはノアを見る。


「ノア。」


「……あそこ。」


ノアは震えながら指を向ける。


「嫌な感じがする。」


ベスは何も言えなかった。


自分にも分かる。


あの場所から。


何かがこちらを見ているような感覚。


ガルドが周囲を見る。


「警戒を続けろ。」


「まだ何も起きていない。」


だが。


誰も気を抜かなかった。


中央島は静かに浮かんでいる。


音もなく。


ただそこに存在している。


まるで。


世界から切り離されたように。


その時。


中央島の周囲の“空”が、わずかに歪んだ。


音はない。


だが確かに、視界の奥が一瞬だけ「ずれた」。


光が、そこに“集まっている”のではない。


何かがこちらを見たことで、光の意味そのものが変質したような違和感。


誰もそれを言葉にできない。


ただ本能だけが警鐘を鳴らす。


――見られている。


その認識が、遅れて全員に落ちてくる。


次の瞬間。


中央島の縁に、極小の白い点が生まれた。


それは光ではない。


距離でもない。


「意志」だけが形を持ったような、異質な“点”。


ゆっくりと、こちらへ向く。


その瞬間。


ベスの背筋に冷たいものが走る。


理由は分からない。


だが確信だけがある。


あれは――


こちらを「見つけた」のではない。


最初から、見ていた。


そして今。


ようやく“認識した”。


グリムファングは。


静かに中央島へ近付いていく。


そして。


彼らはまだ知らない。


これから出会う存在が。


世界そのものの理の中で。


ベスを――


























排除すべき異物として、確かに認識し始めていることを。

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