表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バル  作者: 隣の猫
PR
369/404

セイル





朝日を浴びながら。


修復を終えたグリムファングは、静かに港を離れた。


帆が風を受ける。


波を切る音が心地よく響く。


新たな旅の始まりだった。


船首で海を眺めていたベスの背中へ――


バンッ!


「ぐっ!」


勢いよく叩かれ、思わず前につんのめる。


振り返ると、ボルグが腹の底から笑っていた。


「がっはっはっ!」


「まだその細さかと思ったが……ちゃんと踏ん張るようにはなったな!」


ベスは肩をさすりながら顔をしかめる。


「痛ぇって……加減しろよ。」


「そういえばだ。」


ボルグはニヤリと歯を見せる。


「素振りの回数、ちゃんと数えるようになったか?」


その一言で。


ベスの頭に、雨の訓練場がよみがえる。


泥にまみれ、息を切らしながら剣を振っていた日々。


「数えろ。」


無表情で言われたあの声。


思わず吹き出す。


「……いつの話してんだよ、それ。」


照れを隠すように頭をかく。


ボルグは満足そうに鼻を鳴らした。


「その顔だ、その顔。」


「昔はな、負けた犬みたいな顔ばっかしてたぞ。」


少し離れた場所から、それを見ていたエインが静かに歩いてくる。


足音はほとんどしない。


「ベス。」


「ん?」


短い返事。


エインは海を一度見てから、ぽつりと言った。


「目が変わったのう。」


ベスは首をかしげる。


「そうか?」


本気で分かっていない顔。


エインはそれ以上説明しない。


ただ、目を細める。


「昔は前しか見とらん目じゃった。」


「今は違う。」


「前も、横も、後ろも見とる。」


ベスは少しだけ視線を逸らす。


「……分かんねぇよ、そういうの。」


「それでええ。」


エインは短く言う。


「分からんまま変わるのが、一番ええ。」


そのやり取りを少し離れた場所で見ていたレオンが、肩をすくめる。


「おいおい、なんか説教始まってるぞ。」


軽い口調で割り込む。


「ベス、あんま真面目に聞くと老けるぞ?」


ベスは即答する。


「うるせぇ。」


その一言に、レオンは笑う。


「ほらな、まだその感じ残ってるじゃん。」


空気が少しだけ軽くなる。


ボルグは腕を組んで笑い続けている。


「がっはっはっ!いいじゃねぇか!」


「昔よりずっと面白ぇ顔するようになった!」


その時だった。





「猫さーん!」


甲板に響く、明るい声。


灰猫の後ろを、小さな足で必死に追いかけるノア。


風に揺れる銀の髪。


転びそうになっても、すぐ立ち上がる。


「待ってくださーい!」


灰猫は少しだけ歩幅を緩める。


ノアはようやく追いつき、そのままぎゅっと抱きついた。


笑顔がこぼれる。


その瞬間、ボルグの顔が一気に緩む。


「……なんじゃあ、あれは。」


「反則じゃろ。」


エインも静かに頷く。


「人の心を軽くする子じゃのう。」


ノアは二人に気付き、ぺこりと頭を下げる。


「こんにちは。」


その一言で。


ボルグは即座にしゃがみ込む。


「おう!」


「ええ子じゃな!」


声が一段階優しくなる。


エインは少し遅れて隣に立つ。


「よう来たのう。」


ノアは少しだけベスを見る。


ベスは軽く頷く。


「大丈夫だ。」


その言葉で安心したように、ノアは近付く。


ボルグは恐る恐る手を伸ばし、頭を撫でた。


「……軽いな。」


「ちゃんと食っとるか?」


完全に祖父の声だった。


エインはその横で小さく笑う。


「この船の空気が変わるのう。」


そこへレオンが吹き出す。


「おいおい、完全にじいちゃん二人じゃねぇか。」


ボルグは即答する。


「当たり前じゃ!」


「こんなもん見せられて冷静でいられるか!」


甲板に笑いが広がる。


潮風が帆を揺らす。


グリムファングは穏やかな海を進む。


その先に待つ異変など、まだ誰も知らない。


船は静かに――




















中央島へ向かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ