シー
港に、木槌の音が響いていた。
カン。
カン。
波の音に混じって、最後の作業音が消えていく。
グリムファング。
傷だらけになった船は、それでも再び海へ出られる姿になっていた。
新しい板。
張り直された縄。
修復された帆。
完全に元通りではない。
けれど。
ここまで一緒に進んできた船だった。
ベスは海を見る。
潮の香り。
風の音。
久しぶりの感覚だった。
「また……行くんだな。」
小さな呟き。
隣でノアが海を見る。
「次は……どこへ行くの?」
その言葉に。
全員の視線が集まった。
大きく広げられた地図。
そこには、大樹の神殿で刻まれた印が残されている。
残された光。
それを探すための道。
アイラが指で印をなぞる。
「ここ。」
「大樹の神殿で分かった場所。」
東。
西。
北。
そして。
まだ知らない場所。
「どこから向かうか……。」
レオンが腕を組む。
「全部行くんだろ?」
灰猫が尻尾を揺らす。
「そう簡単な話ではないぞ。」
「光を探すだけではない。」
誰も言葉を返さない。
地図の上にある印。
その先に何が待っているのか。
全員が分かっていた。
ベスは静かに地図を見る。
次の場所。
次の戦い。
その先へ進むために。
その時。
港にいた団員の一人が声を上げた。
「……あれは何だ?」
全員が振り返る。
遠くの海。
小さな船影が見える。
だが。
近づくほどに分かる。
帆は裂けている。
船体には大きな傷。
波に揺られながら、なんとか進んでいる。
「……あの船。」
ガルドが目を細める。
やがて。
ボロボロの中型船が港へ入ってきた。
甲板から二人が姿を現す。
「……久しぶりだな。」
エイン。
そして。
ボルグ。
「エイン!」
レオンが声を上げる。
二人は疲れた表情を浮かべながらも笑った。
「元気そうで何よりだ。」
「そっちは……ずいぶん派手になったな。」
ボルグの視線が止まる。
その先。
ガルド。
以前とは違う姿。
纏う空気。
立つ姿。
少しの沈黙。
そして。
ボルグが笑った。
「……おい。」
「なんだ。」
「かっこよくなったな。」
ガルドが眉を寄せる。
「は?」
次の瞬間。
ボルグはガルドの背中を叩いた。
「ははは!」
「昔より団長らしいじゃないか!」
「痛い。」
ガルドが小さく呟く。
エインも口元を緩める。
「確かにな。」
「前のお前とは少し違う。」
ガルドは返事をしない。
ただ。
少しだけ視線を逸らした。
再会の空気が落ち着いた頃。
ボルグの表情が変わる。
「……悪い。」
「本当は、こんな話をしに来たわけじゃない。」
ガルドが顔を上げる。
「何があった。」
ボルグは海を見る。
そして。
低い声で告げた。
「中央島が……。」
風が吹く。
甲板の地図が揺れる。
残された光を探す旅。
その始まりの日。
世界の異変が、
すぐそこまで迫っていた。




