ファング
港に、
大きな影が落ちた。
「……来たか。」
ガルドが空を見上げる。
黄金の翼。
父鷹、母鷹、そして小鷹。
その爪の下には、
傾いたグリムファング。
「おお……!」
港にいた灰鷹たちから声が上がる。
船が砂浜へゆっくり降ろされる。
ズンッ。
少しだけ地面が揺れた。
「……思ったより重いな。」
父鷹が翼を広げながら息を吐く。
「助かった。礼を言う。」
ガルドが短く言う。
父鷹はそれ以上何も言わず、小さく頷いた。
その横で。
小鷹が胸を張る。
「僕もちゃんと運んだぞ!」
「途中で空回りして遊んでただろう。」
母鷹が穏やかに言う。
小鷹は一瞬固まり、そっぽを向く。
「……風が、ちょっと楽しくてさ。」
アイラが小さく吹き出す。
「それ、正直すぎるでしょ。」
修理が始まった。
灰鷹たちは港から集めた道具を並べる。
「船の修理って、久しぶりだな。」
一人が呟く。
「戦場より神経使うかもしれん。」
「それはないだろ。」
すぐに別の声が返る。
その横で。
ガルドは黙々と作業を進めていた。
迷いがない。
釘を打つ。
板を合わせる。
帆の張りを確認する。
無駄がない動きだった。
レオンが感心したように覗き込む。
「団長、ほんと何でもできるな。船大工でもやってたのか?」
「昔、少しな。」
ガルドは手を止めずに答える。
「少しでこれかよ……」
レオンは目を輝かせる。
「よし、俺もやる!」
勢いよく板を持ち上げた、その瞬間。
バキッ。
乾いた音が響いた。
空気が止まる。
レオンの手の中で、板が見事に割れていた。
「……あれ?」
レオンは固まる。
沈黙。
そして。
「……今の、板の方が悪かったな。」
レオンが真顔で言う。
リシアの表情がすっと消える。
「レオン。」
「はい。」
「その板、あなたが触る前はどうだったと思う?」
「……元気だった?」
「元気って何?」
「……丈夫?」
「今は?」
「……静かになった。」
一拍置いて。
リシアが深く息を吐く。
「つまりあなたが壊したのね。」
「結果的には、そうなるな!」
「誇らないで。」
次の瞬間。
港に響く声。
「レオン!!」
アイラは額に手を当てる。
「修理って、普通こういう方向で壊すものだっけ……?」
ノアは楽しそうに船を見上げている。
「でも、みんな楽しそう。」
灰猫は杖をつきながら肩をすくめた。
「騒がしいのう……だが、悪くはない。」
その声は、どこか柔らかかった。
夕方。
修理の途中。
ベスは甲板に立っていた。
海を見る。
壊れた船。
騒がしい仲間。
昔なら、
ただ前だけを見ていた時間。
今は違う。
背後から聞こえる声が、
少しだけ遠くて、少しだけ近い。
「ベス!」
レオンの声。
「これ運ぶの手伝ってくれ!」
ベスは振り返る。
一瞬だけ海を見て、
小さく息を吐いた。
「……分かった。」
歩き出す。
海風が吹く。
グリムファングはまだ傷だらけ。
それでも。
確かに、もう一度進もうとしていた。




